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小説 「ウホざんまい」(2/5)

 

>>前回のあらすじ
地球にゴリラそっくりな異星人、通称「ゴリアン星人」が飛来した。
ラリー博士は、コミュニケーションを取るべく、ゴリアン星人に接触する。
「ウウホーン! ウ~ホホホホォ~ン‼」それは、博士の第一声だった。

↓↓↓ 前回 ↓↓↓


 

 しわがれた声が牧場にこだました。その残響が、ゆっくりと消えていく。
 ゴリアン星人が、眼を大きく見開いた。おもむろに右手で鼻先をかりかりと掻くと、身を前に乗り出し始める。博士を指差し、低く咆えるような声を発する。

「ウ~、ホォーン」

 それを聞いた博士は笑顔を作り、両手を胸の前で大きく広げた。

 二人のやりとりを遠くでモニタリングしていた助手と政府高官は、固唾を呑みながら、マイクが拾った音声に注意深く耳を傾けていた。
 助手と政府高官が、顔を合わせる。
「彼らは、なんと言っているんだ?」高官が言った。
「わかりません。ですが事前の話では、博士は《会えて嬉しい》旨を伝えると言っていました。その言葉に応えたということは、言葉が通じた、ということかと思われます」
「そうか、我々には理解が難しい言語だ」
「はい。歯痒いですが、我々は見ているだけしかできません」
「仕方あるまい。ここは博士の手腕に委ねるとしよう」

 助手と政府高官の視線の先にいる博士は、広げた両手を畳むと、また会話を開始した。
「ウ~~ホ、ホッホホ、ホッホホ」
 肘をくっつけたり、膝を伸ばしたり曲げたりしながら、博士が言った。
「ウーホ! ホッホ‼ ホォォ!」
 ゴリアン星人が、両腕を振り上げて咆えた。牙をむき出しにして、首をぐるんぐるん回し始める。
「ウウウウウホォーホォ、ホンウホン、ホォホォウンウン」
「ウ~~~ホッ! ホッホ、ウーウー!」
「ホッホッホ、ホ~ッホッホッホ」
「ウウウ、ウウウホ……! ウウウ!」
「ホホホホホッホッホ、ウ~、ホッホッウ~」
「ウホホ、ウウホン、ホンホン。ホホン、ウウホン、ウーウーホ‼」
 ゴリアン星人のボルテージは、会話が行き来する度に増していった。ウとホの言語に合わせるように、手を叩いたり、左拳で左胸を打つなどの行為を始めている。
 一方の博士は落ち着いた様子で、ゴリアン星人の表情をうかがいながら、優しく語りかけるようにジェスチャーを交えてその意思を伝えていた。

 博士はひとしきり会話を終えると、助手たちが見守っている場所へ戻った。
「博士、どうでしたか」助手が、博士に駆け寄って言った。
「成功だ。非常に楽しくも、有意義な会話だったよ」
「それで、ゴリアン星人はなんと?」政府高官が横から言う。
「好きな食べ物は、バナナだ」
「ほう、素晴らしい。やはりゴリラそのものだな」
「いえ、話してわかったのですが、彼は頭脳明晰です。こちらが話そうとする意図を察し、拙い私の言語を推し量って返事をしてくれました」
「なるほど、単純にゴリラではないのか。それに聞く限り、敵意はなさそうだ」
「はい。《みんなトモダチ、この星の生き物は全部大好き》と言っていたので、むしろ友好的でさえあるかと」
「それは喜ばしいことだ」
 政府高官が言うと、その横で、助手が嬉しそうに相槌を打った。
「ちなみに、ゴリアン星人は興奮しているようでしたが、あれはなんだったんでしょう」
「うむ。ゴリアン星人は、この地球に来てから、好奇心に満ち溢れた日々を送っているらしい。それを伝えようと、テンションが舞い上がっていたようなのだ。私は、敵意がないこと、他のゴリアン星人がこの星に来ることを歓迎する旨を伝えた。そして、友好の証にバナナを渡すので、今後もいろいろ教えてほしい、とも」
「それで、ゴリアン星人はなんと?」
「喜びの左胸ドラミングで、快い返事をしてくれたよ」
「そうか、それはよかった」政府高官が言った。「今日はここまでにしよう。たったの一日でこれならば、十分すぎる成果だろう」

 その日はそうして、ゴリアン星人との対話を終えることになった。
 博士たちは満足げに帰り、政府高官の報告を聞いた関係者たちはみな、歓喜の声をあげた。
 そのニュースはすぐに世界各国へと伝わり、大々的にメディアで報道された。博士は異星人との会話に初めて成功した人物として一躍、時の人となった。

 だが後日。

>>続く

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