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小説(SS) 「いつだってエコノミークラス」@毎週ショートショートnote #ダウンロードファーストクラス

お題// ダウンロードファーストクラス
  

 飛行機で出張するといっても、会社の経費で落ちるのは格安航空会社のエコノミークラスまでだ。
 またあの狭くて気の休まらない空間に放り込まれることになるのか、そう考えると誠司はいつも気が沈んでいた。二時間しか乗らないから、機内食も出なければ、映画も微妙に見きれない。たいていは、クライマックスに差しかかった頃になると目的地に到着してしまう! その割に、新幹線や車移動よりも疲れが溜まるのだ。だから、そのサービスが開始されたと知ったとき、誠司の心はときめいた。
 ダウンロードファーストクラス。エコノミー席でありながら、VRヘッドセットをつけることでファーストクラスを体験できるという代物だった。

 誠司は座席につくと、すぐにヘッドセットを起動させた。目の前には、足を伸ばせるほどのスペースが広がっており、キャビアが盛られた前菜とシャンパンの入ったグラスがテーブルに置かれていた。
 誠司は気持ちが舞い上がり、両足を勢いよく跳ね上げた。だがしかし、そこで待ち受けていたのは、現実世界の狭いエコノミー席にぶつけた衝撃による激痛だった。あああっ、くっそお! やっぱり所詮はVRだ、限界がある! 誠司は普段のストレスもあり、激情した。こんなサービスは必要ない! 誰が使うんだこんなもの。足なんて、全然伸ばせやしないじゃないか!! あああっ、いってえええ!!

 誠司は憤りに任せてヘッドセットを外した。だがその目に飛び込んできた光景を見て、即座に口をつぐんだ。飛行機の乗客全員が、VRのヘッドセットをつけていたのである。ああ、みんな狂っている! 疲れてしまっているんだ! こんなかりそめの映像に一縷の望みをかけて、エコノミークラスを無理矢理にでも楽しもうとしているんだ! なんてこった!! だがすぐに気付くはずだ、足が伸ばせないってな!!!

 誠司は己の感情をすべて吐き出すと、冷静を取り戻した。そして、なんの反応もない機内を見渡し、現実から目を背けるために、再びVRヘッドセットを装着した。しかし、背もたれや足元から感じられるエコノミー品質からは、ついに最後まで逃れることはできなかった。

〈了〉886字



いや〜今回はなかなか苦戦しました。
ダウンロードファーストクラスってホントなんなんですか。全然よくわかんなくて「ああああっ!!」というヤケクソ感情を乗せたら、こんな話になってしまいましたよ。足が伸ばせないってな!!!

……っと、失礼しました。
久しぶりに「!」マークを多用した気がします。
もっと工夫した表現をしたいものです。

今回はタイトルを「エコノミー症候群」にしようか「いつだってエコノミークラス」にしようか、最後まで悩みました。が、明るい方にいたしました。

ではではまた〜。

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