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不仲な同期

ふと思い出した。

バスガイド時代、26人の同期と入社した。
全員、寮生活。
先輩と二人部屋にそれぞれ配置された。

私の同期は全員とても素敵な人たちだった。
中にはワガママだったり、言葉がキツかったり、いろいろあったけど
そういう部分ですら「あの人はああいうキャラだからねー」と受け流す。
受け流せない人とは距離をとり、間を取れる人がうまく潤滑油になってくれた。
そのため、ほとんど揉め事は起きない。
20歳にならない若い女性ばかりの集団にしては、ほんとうに大人だった。
もちろん、イジメもない。

そんな中、私は、ひとりの子とどうしても合わなかった。

両親が早く他界して、叔父に引き取られて育てられたという彼女。
苦労した人だと思う。

仕事にも関わらず、自分の好き嫌いを露骨に出し、周りに気を遣わせるところや
機嫌の良し悪しで当たり散らす所も、そして平気で嘘をつくのも苦手だった。
男性のいる時には途端に猫なで声になる所も。

もちろんいい所もたくさんあったとは思うけれど、私は「ただの同期」で友達にはなれないと思っていた。
が、皮肉なことに、7年後、26人いた同期はどんどんやめて、彼女と私だけが職場に残っていた。
その頃にはもう職場でも、そこそこ重鎮クラスになっている。

ありがたい事に多くの先輩ガイドさんからも、運転士さんからも可愛がってもらっていたし
後輩たちも、おっちょこちょいな先輩ガイドの私を「しょーがないなぁ」と笑って仲間にいれてくれていたので、同期がいないといっても孤独なことはまったくなかった。
たまに仕事でミスをしても、凹んでも、飲みに行く友達はたくさんいた。

例の彼女とも普通に挨拶するし、仕事が一緒の時ちゃんとこなす。
誰にも険悪な雰囲気は感じさせないように気をつけていた。
運転士さんからは「お前同期じゃろう、なんとか注意できんのか。仕事とプライベート分けろと言えんか」など、小言を言われたけれど
それは成人した以上、自分の責任だと思うし、私はそこまで彼女にかかわる気持ちはなかった。
そもそも、私の言葉を彼女が聞くとは思えなかった。

そして、会社でとても大きな揉め事が起きた。
ガイドのほとんどが集まり、職場を良くするために、ものすごい事を結構することになった。
絶対内密に。誰にも知られずに。

ところが、その話が漏れていた。
漏らしたのは私の同期の彼女だった。
仲のいい運転士さんに話してしまったらしい。
元々彼女を嫌っていた先輩たちは激怒だった。

その直後、彼女は会社を辞めた。
夢を叶えるため、オーストラリアに行くと決めたらしい。
何人かの同期が見送りに空港に行くからと誘われたけど、行かなかった。
行かない代わりに、寮をでる最後の夜に彼女に話に行った。

「あなたはいいよね、みんなから可愛がられて、好かれて。母親にも恵まれて」
最後まで彼女は私に対して、そういう言葉しか言わない人だった。

あなたがいうみんなと、わたしのみんなは、同じメンバー。
同じ人に同じように出会って、自分から可愛がってもらえないように行動して関係を悪くしたのは自分なのでは?

そう言い返せなかったので、そう手紙を書いた。
今から、もう誰も自分を知らない海外にいくなら、なおさら。
生まれ変わったくらいの気持ちで、出会う人たちを大事にして好かれて欲しかった。


その後、誰とも音信不通になった彼女。
唯一の情報として、誰かと結婚して子供を産んだと聞いた。
ほっとした。
あの頃より、上手に人とつきあえる人になれてるといいなと思う。
家族に恵まれなかったというのなら、新しい家族を大事に幸せでいてほしいと切に願う。

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