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キンダースクールハラスメントの記憶

 ふっと、思い出してしまったできごとがあるので記録を残しておきたい。
きっかけは、以下の記事を読んだこと。
小学校教員の方は、不愉快になると思うので読まずに閉じてください。

https://news.yahoo.co.jp/articles/d6a418f8d1750664ffdc674c0d3ef9262121d645

 今32歳の長男が、小学校4年生だったときのこと。
この学年に、いい思い出はない。担任は、悪気はない人間ではあったかもしれない。しかし、自己中心的で迷惑な言動ばかりが目立った。体育会系の、中年男性教員だった。長男の小学校4年生は、萎縮して過ごした1年間だった。その1年間、身長は1cmも伸びなかった。体重も増えなかった。チックが出て、変なまばたきを繰り返した。まつ毛を自分で全部抜いていた(まつ毛がなくなると、人間は変な顔つきになることがわかった)。

 小学校4年生の三学期には、『2分の1成人式』というくだらないイベントがあった(最近のことは知らない)。多分どこの小学校にも。20の2分の1は、10だから。分数を履修する学年というのもあるのだろうか。参観日にぶつけて、親に手紙を書かせたり、親から手紙を書かせたり、将来の夢を発表させたり、歌を歌わせたり、まあそういう見世物じみた行事だ。

 冬の寒いある日、長男がおびえきった顔で震えていた。口もきけないほどにおびえて涙ぐんでいる様子が尋常でなく、理由を聞き質すのもたいへんだった。

「学校を、退学になるかもしれない」
と言う。きれぎれに。震えながら。

「義務教育なんだから、退学なんかになるわけないでしょうが。なに言ってるの」
「でも、先生に言われたんだ。『たいへんなことになりますよ!』って。『まさか、…退学…?』と言ったら、『退学で済めばまだいいですけどね!』と言われた。もっと恐ろしいことになるかもしれない」
「…え? なにをしたの?」
「2分に1成人式で、親に手紙を書いてもらうことになったんだ。そのお知らせの手紙を、お母さんに渡すのを忘れていたから、『たいへんなことになりますよ』と言われた。『退学で済めばまだいいですけどね!先生が、校長先生に怒られるかもしれないんですよ!!』と言われた」

…………………はあ!?
なんだそれ。

いやいやいや、担任教員が、そんなことが理由で校長に『怒られる』とも思えぬが。
にぶんのいちせーじんしきに、10歳の子が、親からお祝いの手紙を書いてもらう見世物の根回しをする通知文をたった1日渡すのが遅れたからって校長がクラス担任を『怒る』のか?
『退学で済めばまだいいですけど』という発言によって、長男にしてみれば、自分の小学校退学は既定路線であり更に担任が校長に怒られ、そして自分には想像もつかない『たいへんなこと』が起きるらしいという恐怖のどん底に突き落とされて震えていたのだった。

 あのね、そんなくだらない、小学校教員の『仕事やってます』感の自己満足の為に、うちのコをいじめないでくれる?いつもは学校からの通知を渡し忘れるようなことはない子なんだから。


 子どもには、小学校と中学校は義務教育だから決して退学させられることはないと、安心するまで言い聞かせた。

 わきあがる怒りを原動力に、私はすぐに書いた。にぶんのいちせーじんしきの、子どもへの祝福の手紙を。書いて、翌日PTA役員の会合で学校に行ったついでに持参して、長男の担任に手渡した。

 多分、私の書いた手紙はクラスの誰よりもいちばん早い提出だったはずだ。


 そしてにぶんのいちせーじんしきの日(参観日)。担任はギターを持ってきていた。
「伴奏しますから、保護者のかた、2分の1成人式を迎えたお子さんへのプレゼントとして『翼を下さい』を歌って下さい」
と。

 そして、3小節目で早くもコードをミスして音を外した。

 子ども達の前で、担任の伴奏につられてみっともない音程のハズレた歌をさらすなどまっぴらだ。
 その一心で、自分の中の音感とリズム感(絶対音感はないが、相対音感みたいなものならある)を軸に、ギターの音は耳からシャットアウトしてアカペラのつもりで歌った(歌はけっこう歌える)。
あら?なんか子ども達がみんな私の方を見てない?と感じながら。


 実際、帰宅してから長男が言うには、子ども達みんな見ていたらしい。私のこと。派手なソプラノ。


 5年生に進級して、担任が替わったことにより、長男は劇的に変貌を遂げた。活き活きして、チックは鳴りを潜め、まつ毛も生えてきた。5・6年生の担任(持ち上がり)も、4年生のときの担任と同年代の男性教員だったのだが、長男の様子は1ヶ月で変わった。子どもに環境が及ぼす影響の大きさはものすごかった。

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