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美味しかった?とは、訊かないことにしている

実母や妹は、配偶者に対して
「美味しい?」「美味しかった?」
と尋ねては怒っている。
無言でうわの空の父、「喰えんことはない」と答える義弟。

私は、もうかなり前から、
「美味しい?」とも、「美味しかった?」
とも訊かないことに決めている。
ただの言いがかりのような批評だの、見当違いのいちゃもんだの、もったいぶったおもわせぶりな態度だの、そのような不快な反応をわざわざ引き出してしまう必要はない。
断っておくが、料理は得意分野だし、お菓子作りについては
「販売できるレベル」
と賞賛されたことが幾度もある。
ちなみに妹は調理師資格を持ち、調理を職業にしている。
単に3人とも、配偶者が自分のことを、客か雇い主だと勘違いしているというだけだ。

私の配偶者は『美味しんぼ』を買い集めているが、四半世紀くらい前だったか、
「今日の料理は美味しい。腕を上げたね」
と珍しく褒められたのは、忙しかったので市販の顆粒だしを使って作ったときだった。
要は旨味が強くて味が濃いと喜ぶらしいとわかってから、ばかばかしいので訊くのをやめた。

昨日、上記:『DATの箱(中身はある)がない!!』と問いつめられたときのような激しい口調で、
「この鶏肉の味付けに何を使った!?」
と騒ぎだした。
鶏の手羽先を、塩、胡椒、ニンニクスライス、ローズマリーの新芽、コモンセージの新芽と菜種油で2日漬け込んでグリルで焼いたのだが。
そういえば四半世紀くらい前にドライセージの粉末を肉料理に使ったら、犯罪でも犯したかのようになじられたな。
単なる好き嫌いのくせに。
オタフクのお好み焼きソースが至上の美味で広島サミットのコース料理にお好み焼きが供されたと大喜びしていた人間の言うことを、まともに受け取って一喜一憂しては身が保たない。
しかし無駄になじられる趣味もないので、手羽先と同じ日に漬け込んだニシンから、セージを抜いた。明日は勤務日だから、今日の晩ごはんにニシンを出すのはやめて、翌日が休日の明日の夜に回そう。
今日の晩ごはんにはお子様舌対策として、ハンバーグにしておこう。キャベツがあるからロールキャベツでもいいが、ひとつひとつ巻く手間をかけた挙げ句いちゃもんをつけられてはばかばかしいので、キャベツは焼くか煮るかして付け合せにする。
気持ちを込めすぎては、その分相手の反応に期待してしまいそうになるから、淡々と作業することを心がける。

「お代わりある?」
と訊かれたら、あれば「ある」なければ「ない」と返事する。
「美味しかった」
と、向こうから言ってきたら
「それは嬉しいお言葉」
と答える。
淡々と。


5年半前だったか、夫が次男と大喧嘩して、その勢いで
「自分は無理を重ねているから、もう、そう長くない。そのことを知っておいてくれ!!」 
と、私に言いに来たことがあるのをふと思い出した。
いきなりだったので、そのときは、
「わかった」
と答えた。

でも、もうすぐ6年経つ。
周囲の人間の方が疲れ果てて弱っているのだが。
気に入らないことがあると身近な人間をえらい剣幕でなじることで、本人のストレス発散はできているので、多分きっとかなり長生きの部類だろうと予測して、あまり心配はしていない。

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