もしもし

冤罪体験

「もしもし、お母さん?」

私が実家の母へ電話をする時、第一声はいつもこれ。

近々遊びに行くよとか、他愛もない話のために時々掛けている。


「ちょっと声が違うようだけど、風邪でもひいたかい?」


二言三言話しただけで、夫や子供達も気付かないくらいの体調の変化を母は声から感じるらしい。

「あぁ、ちょっとだけ咳が出て。でも元気だから大丈夫だよ。」

さすが母親、娘の変化に敏感だね!なんて感心してみたり。


その日もいつものように電話を掛けた。


「もしもし、お母さん?」

  「…。」

「あれ?もしもーし。お母さん?」

  「……。どちら様ですか?」


ふぁ!?


「え?私だよ??」

  「ちょっと……。あの…。どちら様でしょうか…。」


敬語!

口調からも怪しんでいるのがヒシヒシと伝わってくる。

母はとても用心深い。昨今のオレオレ詐欺流行により更に警戒心が強まっている事は容易に想像できた。


「私だよ〜ゆきこだよ〜!」

  「なんか…声が違うみたいですけど…。」

「いやいや、ゆきこだってばお母さん!声一緒だから!」

  「ん…。やっぱりなんか…違うみたいですね…。」


まだ敬語!!


詐欺師容疑のかかった私は電話を切られないよう慎重に、家族しか知り得ない情報をかくかくしかじかと話し、やっと娘だと信じてもらえたのだ。

  「本当にゆきこ?」

  「いつもと声がなんか違うなぁと思って。あはは。」

「いや、風邪もひいてないし。元気だし。いつもと一緒だし!!」


まさか母親に怪しまれるとは驚いたが、数時間後に喉がイガイガしてきた事に気づき続けて驚く。

もしや本人すら気付いていない喉の変調に、母は気づいたのかもしれない。

さすが母親。

いやお母さん、敏感すぎるよ。



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