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【掌編】ランタン

ランタンを持って蛍狩に行く。
どこをどう行ったのか、ひらけた川べりに出るのにずいぶんとかかってしまった。
誰かのうしろを半泣きでついて行ったはずなのに、そばには誰もいない。
しかし、子どもらの気配と声だけは、川べりの先のほうから感ぜられる。


沢山いるのに、いない。
蛍と星の境は曖昧だ。
こだまのように、子らのはしゃぐ声はする。
騒がしいのに、静かだ。


蛍狩から戻った街では大人たちが騒いでいた。
子どもがひとり、帰らないらしい。
水辺はいつも生と死が密接でその境目は曖昧になる。
まるで無数に飛び交う蛍と空から落ちてきた星のように。
川べりで共にはしゃいだ子らは、生きていたのか死んでいたのか。




これは私が生まれる前の記憶。
無数に視る夢のひとつ。
ありもしない幻。
あったかもしれない現。
……私には兄がいた。顔も声も知らない兄。
何年経っても、蛍狩から還らない兄。
私はその夜、母の胎を出た。



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近日舞台出演がございます。

ミュージカルグループMono-Musica
 独白劇×ミュージカル
『パノプティコンの女王蜂』再演版
影法師ウルド/蛇女役にて出演

【日程】6/22(木)-6/25(日)
【会場】新中野ワニズホール


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[Profile]

マナ

パフォーマンスユニット"arma"(アルマ)主宰。朗読とダンスが融合した自主企画公演を上演している。ミュージカルグループMono-Musica副代表。キャストとして出演を重ねている他、振付も手掛ける。
ここには掌編小説の習作を置く。
お気に召さずばただ夢を見たと思ってお許しを。


#小説
#短編小説
#ショートショート

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