からあげキアゲハ〜④ワタシたちの場所〜
からあげキアゲハ、旅立ちの時。
まだ幼虫の姿でいたキアゲハを見てわたしはほっとしたのですが、その日のからあげキアゲハは元気がありませんでした。温室育ちのキアゲハにアシタバのツボミはいけなかったのかしら。そんな心配をしていたら、キアゲハは次の瞬間見たこともないような大量のフンをしました。いわゆる下痢です。
これは最近知ったことですが、ふだんはコロンとしたフンをするキアゲハの幼虫は、蛹になる段になると水分を多く含んだフンをするのだそうです。当時のわたしはそんなこと知りませんでしたから、ただただ心配するばかり。奇跡を起こしたつもりでいた自分はどこへやら、わたしがあげたアシタバのツボミのせいでおなかを壊したのだと信じ込んでいました。
ところがわたしの心配をよそに、しばらくするとキアゲハはまた昨日のようにソワソワし出しました。その様子はまるでこう言っているようでした。
ココジャナイ、ココジャナイ、ワタシノイバショハココジャナイ。
進みたい道と進むべき道
どうしてじぶんの行くべき場所がわかるのかしら。この時わたしは、からあげキアゲハのことを心底うらやましく思いました。本能があれば、わたしだって道がわかるはずなのに。道が決まっていれば迷わないのに。
当時わたしは迷っていました。学業か、就職か。
学業を続けるのはあわよくばフランス留学をするためで、研究にはてんで興味がありませんでした。就職はお金を貯めていつかフランスへ移り住むためでしたが、したくないことをすることにものすごい抵抗を感じていました。
わたしの願いは「フランス語のある環境にいたい」それだけでした。
「目的もないのにフランスに行くのはよくないよ」
「せっかくフランス語が使えるのにそれが関係ない企業じゃもったいない」
けれど当然ながらこんなわがままな願いについて肯定的な意見は得られません。「いいね」という人の声がないとどこへも進めないわたしは、ただ同じところを思考の中をウロウロするばかりでした。
気づけばからあげキアゲハを迎えてから早2週間。キアゲハはじぶんの場所を求めて次のステップへ進もうとしています。わたしは相も変わらず同じ場所から、からあげキアゲハを見ていました。
「戻ってきたかったら戻っておいで。またツボミを摘んできてあげる。」
せめてチョウチョウになる時は外にいてほしい。と、わたしはキアゲハをベランダに連れてゆき、壁に割り箸を立てかけました。すると、そこら中歩き回った後、キアゲハは割り箸に上って、それきりじっと動かなくなりました。
蛹になる場所は、もっとたくさんあったのですが。
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