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着たくてたまらない

帯で落ち着くのです。とても。

祭りもなんにもないけれど、浴衣を買いました。人生で初めて、百貨店での買い物です。先輩の付き添いでついて行ったのに、いつの間にか買ってました。だってボーナスが入ってたんだもの。

10年使おう、と決めて選んだ浴衣です。家に持ち帰り、匂いを嗅ぎまくります。和服特有のあの匂い。猫吸いならぬ、浴衣吸い。あぁ、いい匂い。YouTubeで調べたとおりに糊を落とし、狭い部屋で四苦八苦しながら畳み、クローゼットの上段に仕舞いました。

浴衣は買いましたが、帯や肌着は実家から。この帯は赤地にアヤメ模様で、裏はピンクと、ちょっと可愛すぎるかしらと思いましたが、浴衣は割とどんな帯だって合いますから良しといましょう。

ずいぶん前に浴衣を来た時には、浴衣と一緒についてきたDVDの通りに文庫結び(よく見るリボンのやつですね)でしたが、24歳ともなれば一味違った結び方をしたい…というわけで再びYouTubeを漁ったところ、お太鼓風な結び方なるものを発見。お太鼓風というのがどんなものなのかはわからないのですが、ともかくやってみようの精神でTシャツの上に帯を重ねました。


動画を見ては止め、戻して見てまた止めて。そんな繰り返しの1回目は「帯を2周する」のところで3週してしまい、失敗。2回目は完成はしたものの形が汚すぎる。3回目でようやくそれらしい出来栄えになりました。

その後も何度か繰り返し、これなら外に出ても大丈夫と思えるくらいにはなりました。きっといざという時にはまた忘れているのでしょうけれど、練習するに越したことはありません。ふぅ。重労働だったぜ。



それにしても、帯を「締める」とは良く言ったものです。グッと締めると、服や身体が帯に支えられていることがわかるのです。たとえTシャツの上からであっても。胸下からおへそのあたりまでが帯で固定されますから、自然と背筋は伸びますし、それが苦でない。むしろ、呼吸するたびに帯の存在を感じるのは、守られているようでなんとも心強い。思わず、Tシャツ姿 on 帯という妙な恰好のまま30分くらい過ごし、そのままうたた寝しそうになりました。

ところで、わたしの敬愛する疫学者の三砂ちづる先生はよく着物の良さに言及していますが、その中で冷え対策のためには着物がとても良いという話をされていました。なんでも、和服であれば裾除けに襦袢、袷、さらに帯でグルグルと巻き、お腹の近くに10枚近くの布があるので、これは良いと言っているわけです。

確かに、帯だけでもほの暖かいですし、身体にピッタリ密着しているから下に着ているTシャツに汗が肌にへばりついたりもしません。もっとも、クーラーが効いた室内で帯を巻いているわけですから、外に出たら多少なりとも暑さはあるのでしょうけれど。それでも浴衣は袖や首元は空いているので、そこで帳尻は合わせられるかもしれません。

なにより、締め付けによる心強さはちょっと病みつきになりそうなくらい気持ちいいのです。かつてのこの国よ、紐やゴムではなく、帯という発明をしてくれて本当にありがとう。折り紙ができないわたしだったら絶対紐しか思いつかない。

着物で生活することは、他にも足さばきや身体技法面でも良い効果があるらしいので、なるほど旅館や芸者さんの身のこなしに思わず見とれるのは和服が人に与える何かしらの力もあるかもしれません。


いや、ま、今の日本社会で日常的な服に着物を選べる人は少ないでしょうし、生活様式だって今はふすまではなくドアノブが多いですから(和服だとドアノブに引っ掛かりやすいのです)、いくら姿勢がよくなったり冷えに良いからといっていきなり毎日着物や和服で、とはとてもいきませんけど。

でも、案外街にも和服姿の人って見かけます。劇場であったり、駅だったり。今日はスーパーでも見かけました。ちょっとしたお出かけや、はたまた日常で洋装ではなく和装を選ぶ人が一定数いるのでしょう。和服人口が残り続けるその理由が、わかる気がします。



浴衣は買った。帯は締められるようにもなった。あとは下駄と腰ひもがあればいつでも浴衣でお出かけができます。お出かけが、できるようになれば、ですけど。

早く、祭りができるようにしてほしいなぁ。ぶぅ。



「お太鼓風」な帯の結び方はこちらの動画https://www.youtube.com/watch?v=GbFsV_EQCLs

三砂ちづる先生のお話はこちらのリンク先https://www.akishobo.com/akichi/misago/v12



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