神須屋通信 #06
相続のこと
4月の大阪は、新型コロナ感染者が連日1000人を越えて、まさに第4波に襲われた日本の最前線になってしまった。「まん延防止等重点措置」では効果がなくて、3度目の「緊急事態宣言」が発令されたが、感染者の数は一向に減らない。医療機関はすでに破綻している。それにしても、「まん延防止」云々という法律は意味不明だ。そもそも名前からしてふざけている。さすがに「マンボウ」という略称は使用を自粛することになったようだが、(私などは、青春時代の愛読書、北杜夫の「どくとるマンボウ」シリーズを思い浮かべてしまう。)「まん延」という間の抜けた書き方もいけない。どうして「蔓延」と書けないのか。義務教育のための方便にすぎない漢字制限など、政府も新聞も無視すればいいのに。いまさら言っても仕方がないが、コロナ対策に関しての政府や大阪府の無策ぶりには呆れてしまう。職員の皆さんは一生懸命だと思うが、指導者が無能なのだろう。1年経っても、PCR検査体制も医療体制もちっとも改善されないではないかなどと、ここで怒っても仕方がない。デジタル化を含めて、それらを本格的に改善するにはあと何年も、あるいは何十年もかかるかもしれない。それが日本の現状なのだと思う。いずれにしても、今後のコロナ対策はすべてワクチン頼み。その肝心のワクチンがいつ来るかわからないんですね。高齢者の私も、いつ打てるかわからないのが現実だ。それなのに、オリンピックを中止もできない政府はいったい何を考えているのか。
などと、一人でイライラしながらも、4月の神須屋亭は、ふたたび、巣ごもり生活に戻った。つまり、不要不急の外出は控えることにしたわけだが、先々月、先月の通信をお読みいただければわかるように、私たち夫婦には、二人そろって、「相続手続き」という、やむを得ない用事が生じていて、4月にも何度か外出することになった。タイトルの写真は、そんな相続手続きのために、春の立山連峰を望む、富山市の郊外をレンタカーで走っていた時に撮影したものだ。これは、家内の相続手続きのためのもので、観光ではありません。というわけで、以下に書くのは、私自身の相続手続きのお話です。これから相続する人たちに何かの参考になるかもしれないと思ったので、書くことにした。
私は、姉の遺産を相続することになった。といっても、相続税の心配のない、ささやかな遺産なのだが、それでも、今もまだ進行中の、相続の手続きはなかなか面倒なものだった。これは、相続金額の大きさとは関係ないもののようです。夫を亡くして一人暮らしをしていた姉が亡くなった時、相続人は、姉の兄弟である私と兄の二人になった。普通、相続するのは故人の配偶者と子供であることが多い。姉の場合は、これらがともになかった。その場合は、姉の両親が相続人になる。両親ともに亡くなっていた場合は、さらにさかのぼって、祖父母が相続人になる。これらが全員亡くなっていた場合に、被相続人(今回の場合は姉)の兄弟が相続人ということになるわけだ。今回、兄は高齢のうえ、歩行がすこし不自由なので、私が相続人代表として、すべての相続手続きをすることになったわけである。
相続手続きのためには、まず、相続人が兄と私の二人であるという証拠が要る。これは、戸籍謄本で行う。今回、いくつか謄本を取り寄せる段階で、「除籍謄本」という耳慣れない言葉を知った。これは、謄本に載っている人たちが死亡したり別の戸籍をつくったりして、空っぽになってしまった戸籍謄本のことを指すのだそうだが、相続のためには、こんな除籍謄本も必要なんですね。面倒なことに、兄弟が相続人になった場合、私たち兄弟以外に異父兄弟や異母兄弟がいないことを証明するためなのでしょうが、両親の出生から死亡までの全ての謄本が必要になる。ただ、私と兄が、姉と同じ両親から生まれたという証明だけでは足りないわけです。つまり、亡くなった父を戸主とした除籍謄本があったとしても、(そこには、当然ながら、両親と、私たち兄妹3人の名前が記載されている。)それだけでは不足なのだ。というわけで、今回私は、両親の故郷である、淡路島の役所に請求して、両親の出生から結婚までの記載のある除籍謄本を送ってもらった。(両親は、結婚してから、大阪で別の戸籍をつくった。)最新の謄本はデジタル化されているけれど、昔の謄本は手書きで読みにくい上に、戸籍法の改定などがあると、何種類もできてしまう。それらの謄本類の請求はもちろん有料だし、郵送してもらうにも面倒な手続きが必要なのだが、幸い、現在ではどの地方の役所もホームページを持っているので、必要な申請書類の書式なども、そこからダウンロードすることができた。でも、パソコンを操作できない人は、直接、遠方の役所に出向くか、電話でのやりとりという事になるのかもしれない。今回も、一部不明のことがあったとのことで、淡路島の役所から私に電話があった。役所の対応は、全体的にとても親切だった。いずれにしても、こうして両親、姉、兄、私の、それぞれの戸籍謄本を全てそろえると、結構分厚い資料になってしまった。でも、関係者全員の戸籍謄本(除籍謄本)をそろえることが、相続手続きの第一歩なのだから、仕方がない。
現在もなお、不動産の相続登記などを含めて、もろもろの作業は進行中なのだが、今回、いろいろと相続に関する手続きを自らしてみて思ったことがある。デジタル化時代を迎えた今、果たして、これからもこういう煩雑な事務手続きは必要であり続けるのだろうか。まず、戸籍謄本。あるネットの情報で知ったのだが、戸籍制度があるのは、世界で日本と台湾だけなのだそうですね。言うまでもなく、台湾は夫婦別姓だから、日本の戸籍とまったく同じというわけではない。つまり、日本は世界でただひとつの戸籍制度を持つ国だというわけだ。私は、NHKの「ファミリー・ヒストリー」という番組のファンなのだが、戸籍制度のない外国では、あんな番組を制作するのは不可能なのではないだろうか。一部の貴族階級は別として、普通の人の血縁関係を証明するのはどうしているんだろう。中国や韓国には、家族を越えた、一族の系統図がありそうな気がするが。
結局は、マイナンバーカードというやつに、全ての情報が紐付けられるということになるのかもしれない。そうすれば、いちいち戸籍謄本を集めなくても、カード1枚で、一瞬にして、全ての血縁関係が明らかになるわけだが、便利だとしても、それがいいことなのかどうかはわからない。さて、印鑑証明、実印、戸籍謄本、住民票。そんな、相続手続きに必要なものたちは、これからいつまで生き延びるのだろう。まあ、私が生きている間は、なくならないでしょうね。
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