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噂の45万円EVを見て「これは欲しい!」と思った理由

はじまり

7月も半ばにかかった頃、ふとfacebookを見ていたら…なんと!あの有名な「45万円EV」こと、五菱製「宏光Mini EV」が、母校の名古屋大学に展示公開されている!ということ友人の投稿から知りました。
しかも、どうやら、日本には「1台しかない」という貴重な実車ということです。そうなったら、もう見に行くしかありません!

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出典:名古屋大学パワエレ研究室ニュース(2021年6月23日)
   https://nagoyapelab.blogspot.com/2021/06/mini-ev.html

世間は祝日で連休期間中だったので、車両を管理されている名古屋大学の山本先生にメールして確認して「連休中も自由に見てください」との返信をいただいたので、22日(木・祝)の早朝に自宅を出発して、名古屋大学に向かいました。

これが45万円EV!

実車が展示されているのは、名古屋大学のC-TECs前です。位置的には、名古屋大学キャンパスの東の端で、地下鉄の名古屋大学駅からでも、東山公園駅からでも、徒歩20分という距離です。日傘をさして歩いたとは言え、炎天下での徒歩移動はオススメしません。
C-TECsに到着すると、分かりやすい場所に、展示されていました!おぉ、これが、EV市場では、テスラをものともせず、ダントツで世界一売れている「45万円EV」。正式名称は五菱「宏光Mini EV」。

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第一印象ですが、デザイン、全体のつくり、塗装など、全く「チープ感」はありませんでした。「45万円EV」と聞いただけで「期待しない」効果もあるかもしれませんが、日本で普通に走っているクルマと何ら変わらない質感に驚きました。

基本仕様
全長 2920mm、全幅 1493mm、全高 1621mm、重量 約700kg、
定員 4名、走行距離 120km以上

大きさは軽自動車より、全長が短い感じで、走行距離も100kmそこそこなので、遠出用ではなく、近場のお出かけ…つまり、サンダル代わり、下駄代わりの移動用デバイスという位置づけだと思います。

さて、それでは、個別に見ていきましょう。

内装(インテリア)

さすがにテスラのような大きなディスプレイはありませんが、必要最小限のもので構成されているため、チープというより、シンプルでスマートな印象があります。

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シート(前席、後席)・ドア

運転席と助手席のシートの調整機能は、あまりない感じですが、短距離の移動であれば、これでも問題ないかもしれません。後席のレッグスペースは狭く、実際の使用パターンは、後席を倒して2名乗車+荷物での使用が多くなると思います。ドアの内装も、プラスチック感は否めませんが、樹脂成型の工夫で、一部を除き、それなりの質感があります。

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操作ペダルと運転モードシフト

何故か、アクセルペダルがかなり右側(助手席側)にオフセットしていて、運転席に座ると、右足を、かなり助手席側に踏み出す感じです。アクセルが「+」で、ブレーキが「-」という表示がわかりやすいです。
運転モードは、センターコンソールにあるつまみでR(後退)N(中立)D(前進)と充電を選択するようです。

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インパネデザイン

エアコン、オーディオ、空気圧警告、ライト調整などがわかりやすく、シンプルに配置されています。エアコンの操作ボタンのクリック感も安っぽさはありませんでしたが、それに比較するとラジオの操作ボタンは、若干チープ感がある印象です。

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フロント部分

非常に狭い空間ですが、搭載されている機器が少ないので、スカスカで上からみると地面がよく見えます。自動車業界で働いている人たちであれば、ほぼ全ての部品名が言えるのでは…と思うほど部品数が少ないです。
このクルマをみると「EV化で自動車作業の雇用が激減する」という意味を実感できます。

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モーター制御ECUとインバーター、電動コンプレッサー

車体前面側のボディに搭載されているモーター制御ECUとインバーター。オレンジ色の配線は「高電圧」であることを示しています。その奥(車体の地面に近い方)に搭載されているが、エアコン用の電動コンプレッサー。こちらも「高電圧」の製品です。

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12VバッテリーとABS用駆動ユニット

普段よく見る12V系のバッテリーと、普及タイプの廉価版と思われるABS(Anti-lock Brake System)の駆動ユニットです。45万円EVでありながら、ABSが標準装備というのが驚きです。

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ブレーキ、ワイパー

EVにはエンジン負圧はないので、エアポンプで負圧を作っているのでしょうね。高い電子制御ブレーキではなく、安価な真空倍力ブレーキを使っているように見えます。
ワイパーモーターも一般のもので、安価な従来製品を、上手に流用していることが、この低コストを実現させるための設計の肝かもしれません。

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ヘッドライト

ハロゲンライトで、ヘッドライトのレンズ周りの意匠にも手抜きはありません。

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ドライブトレイン

実は、この部分の設計が一番驚きでした。なんと、従来のデファレンシャルギヤ部品を、ほぼ、そのまま使って、そこに減速機構を介して(予測)モーターを直結した設計になっています。
これは、従来の枯れた部品を活用することで、シンプルかつ、高信頼性と低コストを実現できる設計です。

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タイヤ、ホイール

タイヤは燃費を考えてか、145/70R12のEV用エコタイヤ。ブレーキは、フロントがABS付きディスクブレーキ、リアは安価なドラムブレーキ。45万円でも、アルミホイール付きです。

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空調

通常の吹出口に加えて、フロントガラスと側面ガラスの曇り止め用のデフロスター吹出口もあります。このあたりも、しっかりしています。

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サスペンション

フロントはストラット式、リアはシンプルで安価なリジッド3リンク式。ここでもコスト低減設計を感じます。

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充電

実際には充電できませんでしたが、前面のロゴマークのところを開くと充電端子があり、クルマに搭載されているケーブルでの充電となります。

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外装部品組付け精度

ドア、ボディなどの外装部品間のクリアランスは、ほぼ一定で全く問題ありません。もしかしたら、組付け精度だけで考えれば、テスラより品質よいかも?と思います。

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その他(質感など所感)

さすがに45万円EVというだけあって、「すばらしい質感」というものではないですが、逆に「チープ感がある」わけでもないです。樹脂成型の製品は多いが、意匠で工夫することで、プラスチック感やチープ感を低減する工夫がなされているということでしょう。

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主要装備品、主要車載機器のまとめ

エアコンを装着していることから、どうやら、この車体は45万円の完全なベースグレードではなく、約60万円のモデルらしいです。
ここで主要装備と主要機器をまとめます。ここでわかるのは、仮に約60万円だとしても、多くの装備品がついていること、加えて、車載機器の個数が少ないことです。
■主要装備品
電動パワーステアリング、ABS、エアコン、ラジオ、パワーウィンドウ、空気圧警告、ライト上下調整、アルミホイールなど
■主要車載機器
インバーター、モーター制御ECU、モーター、電動コンプレッサー、コンデンサー&ファン、ABS駆動ユニットなど

エンジニアリング&ビジネス視点でみた五菱「宏光Mini EV」

一言で言えば「部品調達も含めて、こうやって作れば、超低価格のEVができる」というお手本が、この宏光Mini EVだと感じました。言い方を変えれば、テスラと同じで「スクラッチから考える」ことができる人、企業だからできることです。テスラとの違いは「低価格実現のため、あるものは使う」という思想の部分でしょう。
違う表現をすれば、「今あるクルマから、不要なものを外して安いEVに仕立てる」という「引き算の設計」は難しく、「ゼロからあるもので、安くなるようにEVを設計する」という「足し算の設計」の方が効果的だとも言えるのかもしれません。

何故「これは欲しい!」と思ったのか?

安全のため車体から電池が取り外されていたので、電池には触れませんでしたが、搭載されている電池は約10kWh前後(モデルによる)とEVとしては、比較的小容量のものです。ちなみに、走行距離にこだわる普通のEVだと電池容量は以下のような感じです。
テスラModel3(SR+):55kWh 日産リーフ(e+G):62kWh
モバイル・バッテリーの充電で経験があると思いますが、大容量のバッテリーだと、充電時間も長いですよね。それはEVの電池でも同じです。
つまり、宏光Mini EVの約10kWhであれば、普段、ちょい乗りだけであれば、乗った後に、自宅で夜間充電しておくだけで大丈夫。つまり、スマートフォンの充電と同じ感覚で使えそうです。
もし、そうなら「充電インフラの整備状況とは関係なく使える」という画期的なメリットが手に入ります。これは、「複数台のクルマを所有していて、1台はガソリン・ディーゼル車を持っているが、2台目をどうするか?」ということを考えている人たちには朗報ではないでしょうか?
地方で「一人一台クルマが必須」という環境においても、そのユースケースを考えれば、120km/日走行できれば、問題ない場合が多いと思います。

まとめ:100万円以下で100km/日走行できて自宅充電できるEVがあれば

テスラは、カリフォルニア州で、自前のスーパーチャージャー(急速充電器)インフラを構築してユーザーに圧倒的な利便性を提供していますが、日本市場には本腰を入れていないためか、東京でも6箇所、愛知県では2箇所しかスーパーチャージャーがありません。(2021年8月現在)
また、インフラなので整備のために投資と時間が必要ですが、収益モデルが不透明なので、今後も、充電インフラ整備には時間を要するでしょう。
しかし、この五菱「宏光Mini EV」が示したような「小型、低価格、小型電池」のEVがあれば、「充電インフラに依存しないEV展開」が可能になるのではないでしょうか?

謝辞

実車を見学できる機会を実現いただいた、名古屋大学 山本先生、日本能率協会のみなさまに感謝します。ご尽力いただき、ありがとうございました。

※個人的な見解であり、所属する会社、組織とは全く関係ありません。
 ご意見などあれば、是非、お伺いできれば、うれしいです。

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