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ロイヤルホストのパンケーキ問題について

先日放送されたTBS系列のバラエティ番組「ジョブチューン」内のジャッジコーナーで、ファミレスチェーン店のロイヤルホストのメニューがジャッジにかけられましたが、その中でパンケーキがまさかの不合格となり、大炎上しています。

私は地元の企業ということでこの番組をリアルタイムで見てましたが、この問題について一言申したくなり、ここに書くことにします。

パンケーキ不合格の何が問題だったのか

この問題が炎上したことについては複数の要因があると思いますし、それを一つ一つ取り上げるときりがないので、引っかかったところを拾い上げます。

まず一番反感を感じたのは「家庭のフライパンでもこの焼色は出せるでしょ」という発言。
私もたまに自宅でホットケーキを作ります。だから思いますが、「無理だろ」と。
ロイヤルホストでパンケーキを作るには社内の技能検定のようなものがあり、それに合格した人でないと顧客に提供するパンケーキは焼けないのだそうです。
番組中でも生地の落とし方から焼色の付け方まで厳しく規定されていて習得するまで時間がかかると紹介されていました。
またロイヤルホストのパンケーキは3枚重ねで同時に焼くことから、大きく焼きムラが出ない焼き場が必要となります。
生地を落とすと温度が下がるので、それをコントロールする温度調節も必要です。もちろん焼きすぎれば焦げるし硬くなります。
総合的に判断して、本職の職人さんならいざ知らず、家庭でこの焼色のパンケーキを作るなんてのはどう考えても無理だろうと思うに至りました。
一連の批評の中では、この意見だけかなり異質に感じられたというのが率直な感想です。

また他にも「ケミカルな香り」とか、「3枚重ねにすること」の是非についてもかなり否定的なニュアンスに編集されて放送されたように思います。
これは後述するところとも重なるのですが、シェフが意図した形とは相当違った形で放送では伝わっているように感じられる面がある一方、それを「ロイホのパンケーキ」に要求するのはちょっと無理筋ではないかなと感じるところもありました。

番組の尺の中で伝える困難さと安易な過剰演出

炎上したことにより、当該発言をしたシェフの側からもコメントが発せられています。
そのなかで「ケミカルな香り」という発言をしたシェフのコメントを拝見したのですが、色々と考えさせられました。
放送時から彼の言わんとする「小麦粉と砂糖だけでもパンケーキはすごくいい香りがする」という点については全く否定の余地はありません。
多少単価を上げるとしてもそちらを志向した今風のパンケーキの商品化を検討してみては?という提案自体が的を外していたとは思わないのです。
ただ、香料などの香りが立つことをナチュラルに対してケミカルと表現したことはまあいいとして、それは現在のロイホのパンケーキのキャラクターを否定するのでは?という疑問はありました。

番組ではカットされていますが、発せられたコメントによればこのシェフは他のメニューについてもこの価格でこのクオリティを提供するのは凄いという発言もされていたとのことで、実際パンケーキについてもこの価格で提供しているという点を考えれば否定的なニュアンスでの発言ではなかったということが伺えます。
商品開発会議のような雰囲気で進んでいたという発言もあり、恐らくパンケーキとしてより良くするならこういうやり方もある、というニュアンスだったのかなと推察しました。

またそれを踏まえると他のシェフの3枚重ねにする是非についてや、バターやシロップの添え方の指摘についても見え方が変わってきます。
こういうやり方もあると思うがどうか?というニュアンスからの発言であったとしたら、番組中で受けた印象とはかなり違った感じを受けるのです。
例の「家庭でも焼ける」発言はそれでもなお許容できませんが、ひょっとすると番組としてヒールになることを要求されてたのかなと思うフシも無きにしもあらずです。

およそ一時間という尺の中で10メニューの評定を全部見せなければいけないとなれば、当然1メニューあたりの尺は限られるのはわかります。
そのなかでシェフの思いや企業側の思いを伝えるのは難しいし、伝え切るのはまず不可能だとも思います。
ただジョブチューンが昨今批判されているのはちょっと安易に過剰演出に走りすぎるところにあるのではないかと思うのです。
もともとジョブチューンは業界の中の人を呼んできて裏話的なエピソードトークで繋いでいく番組だったはずです。
派手ではないけど、様々な職業の裏側を見せることでその職業への関心を深める大変良い番組だと思っていました。
ジャッジ企画が好評だったからか、コロナのせいでスタジオに多くの一般人を呼びにくくなったからか、どっちが先かはわかりませんが、だいたいこのへんから過剰演出なのではと思わされるところが増えてきました。
先のファミリーマートのおにぎりで炎上してからは尖りすぎた発言が放送されることは減ったように思いますが、かなりシェフの発言が切り取られてるなと感じていました。
こちらもあくまで「TVショー」として派手な演出もショーだからというスタンスで見ているところはもちろんあるのですが、そもそも「ジャッジ」とか「合格・不合格」という言葉が強すぎるというのはあるかもしれません。
先のシェフのコメントによる「実際の現場は商品開発会議のような空気感があった」というのなら、もっとそれを見られるような構成にはできないものなのでしょうか。
派手さは減るかもしれないけど、企業に対しても審査をするシェフに対しても誠実さを感じられる番組になるほうがみんな幸せになるのではと。

そもそも「ロイホのパンケーキ」は

そもそものところ、ロイヤルホストのパンケーキは創業からの看板メニューの一つで、オニオンスグラタンスープやジャワカレーと並ぶ歴史あるメニューです。
それだけに企業側としてもこだわりもあるし、不合格とされたことで言葉を失うレベルのショックを受けたのは無理からぬ事です。
これはパンケーキを食べる顧客の側としても同じで、「ロイホのパンケーキ」はある意味でそれで完結してしまっているところもあると思います。

地元の人間にとってもロイヤルホストはファミレスといってもちょっと敷居が高め、行くとなれば「よし今日はロイホ行くぞ!」という気合いが必要なお店なので、それほど頻繁に行くわけではありません。
だとしても、このパンケーキの味は記憶に残っているのですよ。

私個人の感想ではありますが、3枚重ねで提供されることも、香料の香りが少し強めのホットケーキミックスの香りも、たぶん今風のパンケーキを提供するお店では味わえない、ファミレスクラスだともはや唯一無二くらいのレトロなキャラクターとなっているように思うのです。
今風のパンケーキを食べたいならどこかで食べられるけど、レトロなパンケーキを食べたかったらロイヤルホスト、それくらいになりつつあるのではと。
今回の炎上の際に「パンケーキは変えなくていい」と声を上げた人たちは大なり小なりこういう思いがあるのではないかなと思うのです。
(不合格を出したシェフを誹謗中傷したりするのは論外です。言葉を選ばずに言うなら、完全にイカレた行為です)

ジャッジ放送から数日後、久しぶりにロイヤルホストへ行きました。パンケーキを食べに。

そして改めて思いました。
この色も、3枚重ねも、ちょっとケミカルな香りも、この懐かしい感じがロイヤルホストのパンケーキなんよと。
改良の名のもとにこれがなくなるとしたら本当に惜しいと。

他方こうも思いました。
ロイヤルホストであれば、今風のパンケーキを開発しても多分美味いんだろうなと。
あのシェフが言ってた小麦粉の香りがするパンケーキをロイホが出したら、多分食いに来るな、と。

私は今回不合格をつけたシェフに敢えてありがとうと言いたい。
多分不合格にしてなかったら、改めてパンケーキを味わって食おうなどとは思ってなかったと思うのです。
だけど、ロイヤルホストのパンケーキは今のままでも美味しかったです。

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