宇治拾遺物語にロングコートダディを感じる

古典、と聞いてどうかむつかしい顔をしないでほしい。
とてもとても楽しい話を見つけたのである。
 
『宇治拾遺物語』の巻3-2
「藤大納言忠家、物言ふ女の放屁のこと」というオハナシだ。
 
原文は以下のとおり。

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今は昔、藤大納言忠家といひける人、
いまだ殿上人におはしける時、
びゞしき色ごのみなりける女房と物言ひて、
夜ふくる程に、月は昼よりもあかりかるけるに、
たへかねて御すをうちかづきて、なげしの上にのぼりて、
肩をかきて引きよせけるほどに、髪をふりかけて、
「あな、あさまし」といひて、くるめきける程に、いとたかくならしてけり。
女房はいふにもたへず、くたくたとしてよりふしにけり。
此大納言、
(心うき事にもあひぬる物かな。世にありてもなににかはせん。出家せん)とて、
御すのすそをすこしかきあげて、ぬき足をして、
(うたがひなく出家せん)とおもひて、二けんばかりは行程に、
(抑(そもそも)その女房のあやまちせんからに、
出家すべきやうやある)と思ふ心又つきて、たゞたゞとはしりて、いでられにけり。
女房はいかがなりけん、しらずとか。
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さて、拙いなりに現代語訳を載せてみようと思う。
読みやすいよう文を区切ったり、ニュアンスで訳してしまっていることをおゆるしください。

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もう昔の話になるけど、大納言藤原忠家という人が、まだ殿上人でいらっしゃったときのこと。

ある可愛らしくてエッチな女の子と喋っていて、夜が更けてしまうと、昼よりも明るいくらいに月が光っていたから、もう忠家はたまらなくなって、簾をくぐって部屋に上がりこみ、女の子の肩を抱き寄せた。
すると、女の子は髪をふりふり、
「いやっ、そんなぁ…」
なんて言うので楽しくいちゃついていた、まさにその時、女の子がけたたましいおならをしてしまった。
女の子は物も言えないようすで、くたくたと体ごと伏せてしまった。

忠家は、
(うわぁこんな最悪なことってあるんや。生きててもどうしようもないやん。出家しよう)
と思って、簾の裾をチャッとめくり上げて女の子の部屋を出て、
遠慮深く“そーっ”と歩きながら
(もう絶対、出家しよ)
と思って、柱二本分ほど進んだところで、
(いやそもそも、あの女の子がおならして、なんで俺が出家せなあかんねん?)
と思い直して、あとはもうタッタッタッタと走って、建物をお出になった。
その後、その女の子がどうなったのかは
(ちょっと、知らないっすね)
ということらしい。
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この、恥じらいのつまった女の子と、デリカシーの無い忠家の対比がおもしろい。
「たたたた」と走る、「くたくた」と倒れる、そんな擬音の使い方もいい感じだなあ。
 
私はこの文を訳してみて「なんだかロングコートダディのコントみたいだ!」と、思った。
ちょっと前に配信ライブで(お願い1回だけ!)のコントを見たからかもしれない。
あのコントも、ベッドを前にして懸命にくどく裸の兎さんと、楽しみながら「イヤッ」という女の子(堂前さん)のやり取りが最高で、大笑いした。
 
堂前さんの女役はどこか柔媚で上品さが漂ってて、宇治拾遺物語の「女房」っぽい。
兎さんについては、自分勝手だけど憎めないかわいさとおかしみが溢れてるところなんか「忠家」ぴったしである。
 
こういう古典を、高校の頃に知りたかった、と思う。
センセイに
「次の授業では宇治拾遺物語を読みます。この話はね、ロングコートダディのコントみたいで面白いねんよ…活用形しっかり覚えてきなさいね」
なんて言われたら、きっと勉強も身に入ったかもしれなかったのになぁって。

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