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月と六文銭・第十四章(59)

 工作員・田口たぐち静香しずかは厚生労働省での新薬承認にまつわる自殺や怪死事件を追い、時には生保営業社員の高島たかしまみやこに扮し、米大手製薬会社の営業社員・ネイサン・ウェインスタインに迫っていた。

 田口はウェインスタインからの電磁波を防ぐための試行錯誤を重ねつつ、ウェインスタインの上司であるオイダンが同僚・デイヴィッドを殺した犯人かどうかを確認したかった。韓国から戻ってくる前にオイダンとウェインスタインの処理方法を整理したかったのに、ウェインスタインからの連絡で予定変更を余儀なくされることに…。

~ファラデーの揺り籠~(59)

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 米国で有名になった女性弁護士が法学部生時代にエスコート嬢をして学費を稼いでいたのが発覚したことがあったが、普通に暮らしている分にはほぼ確実にバレなかっただろうに、有名になってしまったために昔の顧客から情報が洩れたのだろう。

 それはともかく、オイダンはお気に入りのホステス以外とは店外のお付き合いはしないだろうと予想された。安心感は大事だ。誰かに狙われている、いないに関わらず、身の安心を顧みず遊ぶほど愚かではなさそうだ。
 今回、田口が偶然の一致を認めず、必然だと思って分析したからある程度実像が見えてきたが、これまでは誰にも気づかれずに活動してきたのだから、ああ見えてかなり慎重な性格なのだろう。

 本意ではないが、婚外交渉をしているセクシーホステスに変身する地味な主婦にハニー・トラップを仕掛けてもらうことが成功への最短距離だろう。

<夫にバラスと脅す?脅さずに誘導して、オイダンを嵌める?友達になって協力させる?>

 全くの他人を巻き込むのは本意ではない。そこまで田口も悪人にはなりたくはなかった。本来は頑張って生活している一般市民を守るためにこの任務に就いて作戦を行っているのに、その守るべき一般市民を巻き込んで不幸にするのは間違っている。
 皆、それぞれ事情があって生活を頑張っているのだから、それを脅し材料にして協力されるのは筋が違うだろう。悪人や敵はそうやって使ってもいい。自分だっていつ悲惨な死に方をするか分からないが、それは任務だからだ。一般市民にそれを求めるのはおかしいし、間違っている。
 ハンドバッグに位置情報トラッカーを着けるくらいは大丈夫か?いや、バレた時に本人は言い訳ができず、理由も分からないまま危害を加えられてしまい、殺されてしまうことがあり得るとなると、やはりダメだ。

<あのホステス、あくどいことをしているなら使ってやろうと思ったのに、真面目に生きていて旦那とよりよい生活ができるよう頑張っているらしいから>

 組織が調べた高間たかま雄介ゆうすけ・みどり夫妻の過去と現在は真面目な市民生活そのものだった。運送屋と家庭教師を掛け持ちしながら苦労して大学を出た夫、コンビニと居酒屋を掛け持ちしながら大学を出た妻。メーカーの営業マンとして脚を棒にして契約を取るために奮闘している夫、スーパーでレジ打ちと品出しを朝から晩まで続けている妻。
 こうした普通の市民を守るために日々奮闘しているのが本来の自分だ。そう田口は思った。
 既にオイダンと肉体関係にあるみどりを脅してオイダンを自分の望む位置まで誘導できないかと思ったが、その考えに一旦ストップをかけた。

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田口静香の寝物語がいよいよ佳境を迎えたかと思いきや、意外な人物の関与が状況を複雑にしていく。 CIA工作員・田口静香が担当した危険なアサインメントの第四部に突入!

CIA工作員・田口静香が営業ウーマン高島都に扮して、謎の能力を持った製薬会社営業マン・ネイサン・ウェインスタイン(実は元軍人マーク・ウェス…

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