月と六文銭・第十四章(23)
田口静香の話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。
ビジネスウーマンに変装した高島都は、パイザーのネイサン・ウェインスタインとのベッドインに向け、いろいろ準備していた。
~ファラデーの揺り籠~(23)
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***現在***
ハニートラップの男性版"ロメオ作戦"は政府や軍の高官夫人や政府系組織の女性職員や女性工作員などがターゲットとなる場合が多く、自分が情報組織の一員ということは知らせずに罠に嵌める。
女性は、"恋人"の為だと思い、何でもすることがほとんど。
「哲也さんは話が上手だし、エッチも上手だから、今度私と組んでロメオ作戦はどう?」
「え、いや、興味ない女性を口説いたり、エッチしたりするのは無理です」
「興味沸きませんか、政府高官夫人の痴態とか、ライバル組織の女性エイジェントのセックス・テクニックとか?彼女らもそれなりにテクニックを磨いているから、夜は楽しいかもしれませんよ」
田口の悪戯っぽい笑みから、武田をからかっているのが分かる。
「いや、他の組織から距離を取っておくのが一番だと思っているので」
「ははは、分かっていますよ。あなたの場合、存在しないこと自体が最大の武器だから、表立ってスパイ活動はしない方がいいですよね。
そういえば、モサドの女性エイジェントにあなたのことがバレなくてよかったですね。ロメオ作戦どころか死海に死体になって浮いていたかもしれませんからね」
「またそういう怖いことを言う」
「あの子はモサドのベヨネットだったのよ」
「暗殺専門家集団?」
「そう。副長官のお父さん直属の暗殺部隊。誰がビ・ラーディンの末弟を殺したと思っているの?」
「あの子?」
「正確には、殺したのはあの子の兄だけど、あの子がハニーを仕掛けて、カナダのホテルに誘いだしたの」
武田はしっかりしているようで、なんとなく守ってあげたくなる雰囲気をうまく出していると感じていた。
「でも、あの子、哲也さんのテクとパワーで完全にノックアウトされていましたよね。あれじゃセックス後の作戦は無理っぽかったですよ」
「同業者だと思っていなかったから、思いっきり楽しんでいたのかもね。しかも、出会ったのが10歳若い時だったから、まだまだ夜は」
「パワフルだったと言いたいの」
武田はウィンクしてみたが、田口は納得していないような複雑な表情をした。
「あなたは満足していなかったみたいだけど」
「そうですね、彼女の方が楽しんでいた感じでしたね」
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***再び回想へ***
都は自分の部屋の前で立ち止まって、少し考えこんでしまった。あれ、私ってこんなこと、いままで気にしたことがないのにどうしたんだろう。
この後、あのアルテミスと組む予定だから、このビデオを観られるのを恥ずかしいと思っているってことかな。自分としては珍しい感情だな。
このビデオを見せないで作戦だけ遂行する方法もあるから、今は取り敢えず気にせず、ウェインスタインを嵌めなくちゃ。
え、罠によ、罠に嵌めるの。あっちの方のハメるじゃないよ。あぁ、何を言っているの私。まだ会ったこともない男性を意識し過ぎているなんて、何か変だな…。
都はウェインスタインを仕留める必要が生じたら、日本に配置されているスナイパー、コードネーム"アルテミス=月"を使うことにしていたのだ。今まで言葉を交わしたことがないから、自分のイメージ通りの男かすら分からないが、狙撃の腕は間違いないと評価シートに書かれてあった。
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