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月と六文銭・第十四章(29)

 田口たぐち静香しずかの話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。
 高島たかしまみやこは、ターゲット=ネイサン・ウェインスタインの秘密を探り出すべく彼とのベッドインに向け、いろいろ準備していた。

~ファラデーの揺り籠~(29)

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 都はバスタブに溜めたお湯にゆっくりと浸かり、体を温めながらストレッチをした。腰を捻り、首や肘を伸ばしたり、肩を回したりした。
 タブの中で立ち上がり、すっと右足を挙げて、Y字バランスをした。デイヴィッドの仕掛けたカメラから都の女性の部分は見えていないはずだ。一番柔らかいスポンジでそこを丁寧に洗い、脚を降ろした。再度洗うわけではないが、体の向きを変え、今度は左脚をさっと挙げた。デイヴィッドに見えないようにすると、壁に向く角度になってしまうのだ。
 洗うことも大切だが、脚を挙げていたのは一種のストレッチだ。ウェインスタインに求められたら、どんな体位でも対応しようと考えていたが、いざ闘う必要が生じた時に体が動かないのは論外だった。
 体のほかの部分も丁寧に洗った後、最後は髪を洗った。シャワーヘッドから優しく降り注ぐお湯で洗い、時間をかけてトリートメントをした。彼氏に会うくらいの気持ちで準備をした。いや、今夜は彼氏だと思って会うつもりだった。任務だから受け入れる必要があれば、ターゲットを受け入れるが、喜んで受け入れている工作員なんているわけがない。
 一通り洗い終わったところで、細かいところまで確認しながらシャワーで全身を流し、バスを出た。
 まず全身をざっと拭いて水分を取ってから、髪を拭いた。上からざっと全体を拭いた後、生え際から頭の中心に向かって拭き上げていった。最後はお約束の「髪にターバンを巻いたような状態」にして、もう一枚の大きなタオルを体に巻いた。
 その状態で鏡台の前に座り、顔を作った。おでこから目の周りを整え、次に首から上に向かってマッサージをする要領で顔をキリっとさせた。化粧の土台となるファンデーションを着けて、顎、頬、おでこのベースを作った。眉を整え、目の周りのラインを明確にした。しかし、今夜はソフトなイメージで迫りたい、いや、向こうから迫られたいので、普段のビジネスウーマン的なシャープな化粧ではなく、OL的なイメージに自分を整えた。

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 OL的イメージって考えてみたら、雑誌で観た物か、アサインメントで潜入したオフィスに勤めていた人たちが基準になっていた。本当の事務なんてしたことないから、一般的なOLってどんな感じなのか、本当のところは分からない。今更、こんな時にそれを思い出すというのは皮肉なものだった。
 都はまず、前屈みになってペパーミントグリーンのブラジャーを着け、カップの中の乳房の形を整えた。あっちこっちから寄せて谷間を作る必要のないEカップは他の女性の羨むところだ。
 寄せて上げてだと谷間はYの字になる。都のように元々胸が豊かだと谷間はI字になる。しかも、その胸は下側から見た場合、逆さまのY字になる。それが確認できるのは都が大人っぽいパーティードレスとか、セクシーというよりもエロいランジェリーを着た時だ。
 ま、ただ大きいだけじゃなくて、つんと前に出ている、おじさんの好きな「ロケットおっぱい」だから、政治家や高級官僚、企業経営者は私を抱きたくなるのだろう。

***現在***
「武田さん、私の胸、好きですよね?」
「ええ、もちろんです。大きいし、形がいいし、色もきれいで、田口さんのような胸の女性はなかなかいないですよね」
「ありがとう」
 田口は軽くお辞儀してお礼を言ったが、棘のあるバラであることを隠さなかった。
「でも、シングルママさんの胸は子供を産んだ女性とは思えないほど張りがあるロケットおっぱいでしたよね?しかも、腰はバンと張っていて、バックからする時には掴みやすかったでしょ?」
「あぁ、凄かったよ。胸は前に突き出すように張りがあったし、腰もバーンと張っていて、バックからした時はパンパンというよりも、お尻が大きかったからビタンビタンと餅つきをするような音がしたなぁ」
 田口はムムッと唇をかんで、いじっていた武田の乳首を強めに摘まんだ。
「ツッ」
「デリカシーの無い方ですね!嘘でもいいから『そんなことないよ、静香の方が胸はきれいだよ』とか『静香をバックから攻める時の方が興奮するぞ』とか言えませんか?」

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