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月と六文銭・第十八章(12)

 竜攘虎搏リュウジョウコハク:竜が払い(攘)、虎が殴る(搏)ということで、竜と虎が激しい戦いをすること。強大な力量を持ち、実力が伯仲する二人を示す文言として竜虎に喩えられ、力量が互角の者同士が激しい戦いを繰り広げることを竜攘虎搏と表現する。

 日本潜入中の中国特殊部隊・白虎バイフーの部隊長・チェン中佐は暗殺部隊・明華ミンファの一員・コードネーム・藩金蓮パン・ジンリャンと情報交換をした後、若干お調子者の李班長が他の嬢に余計なことを言っていないか気になっていた。
 藩金蓮=本名・李静妹リー・ジンメイはさすが諜報学校を優秀な成績で卒業した諜報官、陳隊長の心配を察して、同僚の嬢に対し、田中さん(=李班長)とどんなことを話したかをさりげなく探った。

~竜攘虎搏~

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 店長の話ではナンバーワンの嬢は見た目が普通の女性で、スタイルも顔も飛びぬけて美人ではないが、気遣いとか、言葉の丁寧さ、仕草の上品さ、よく気が付く点など、男性に気に入られるタイプだということだった。
 昼間出勤しているので、女子大生か若い人妻だろうと男性陣は思ったが、実際にはシングルマザーで必死に生活をしている女性だった。子供を預けてここで働き、朝晩は一緒に過ごすという生活が可能なのはこういう業態ならではだった。
 また、スーパーのパートではとても収入が足りないから彼女は思い切って飛び込んだのだが、これまでの生活や男性観が思い切り崩れたのが衝撃的だった。それを隠しながら丁寧な接客を続け、指名を返し、ランクインして、ようやく安定した収入と顧客層を手に入れた。もちろん収入の一部を病気予防・性病検査や美容にも使わないといけなかったが、子供といられる時間の方が貴重だった。

 中佐は班長の話を聞きながら、麗泉、本名・李静妹リー・ジンメイからもらった情報をどう活用するかと次に会うタイミングをどうするかを考えていた。

***
 その夕方、麗泉れいせん優李ゆうりは店の勝手口から帰路についた。

「お疲れ様でした~」
「お疲れ様で~す」
 
 麗泉はデニムにTシャツ、革ジャンにキャップを被り、同僚の優李も似たような恰好だった。
 優李はお店のプロフィールでは23歳の設定だったが、李班長が予想した設定年齢の2、3歳上ではなく、実際には7、8歳上の31歳だった。麗泉はお店では25歳の設定だったが、実際には24歳だった。しかし、優李は麗泉が25歳に設定していたことから実際には自分よりも年上の32、33だったと思っていたようだ。
 麗泉は同僚嬢がどんなことを知っているのか確認するつもりで一緒に帰ることにしたのだ。駅に向かいながら、麗泉は思い切って話を振ってみた。

「ねぇ、今日の小団体さ、4人の、あれ、中国人だったよね?」

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 優李は合点がいったようで、話に乗ってきた。

「やっぱり!
 田舎もんじゃなかったよね?
 なんか訛りが不自然で、どっちかというと、標準語の方がマトモだったよね?」
「やっぱり~!
 しかも、結構スケベだったよね?」(笑)
「アタシのはかなりしつこかったけど、変なことはしなかったな。
 3回ともきっちり出してた」(笑)

 優李は相手をした中年男性が結構しつこかったことが印象に残っていたが、乱暴とか雑ではなかったため、それほど悪い印象ではなかったようだ。

「アタシのは結構デカかったから、マットとベッドは乗ってヤった。
 後ろからヤったらあとで痛くなりそうだったし」

 麗泉は鏡越しに見た中佐のペニスが結構大きいことを確認していたので、話を合わせた。

「アタシの方は普通だったけど、後ろからガンガン突かれて、珍しく結構感じちゃった。
 角度なのかな~」
「そうじゃないの?
 時々いいところ当たる客っているよね?」
「たま~にね、ホント、たま~に」(笑)

 優李は見た目から警戒していた男性が意外と丁寧で、力任せな乱暴な腰遣いではなく、リズミカルに突いてきたので、不覚にも感じてしまったことを自覚していた。

「アタシなんて今日の客、3回中2回イっちゃった。
 絶対内緒よ(笑)。
 客となんて絶対イかないのに、普通。
 結構丁寧にされて、安心しちゃったのか、ええッと思っているうちにイっちゃって」
「アタシなんて、3回よ。
 普段ほとんど客となんてイかないのに。
 だいたいアタシら客といちいちイってたら仕事になんないし。
 アタシの客、体がっちりしてて、荒っぽそうだったから、最初結構警戒したんだけど、優しくて上手だった。
 なんか手がきれいで、器用で、結構感じるポイントを攻められちゃった」(笑)
「アタシのも」(笑)

 地下鉄の駅に近くなって、スーパーが見えてきた。

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「麗泉ちゃん、珍しいよね?」

 互いに源氏名に「ちゃん」をつけて呼ぶのが普通で、もっと親しくなると本名を教え合うこともあるが、麗泉にとって優李はあまり親しい子ではなく、ただの同僚だった。

「え、イくのが?」
「うううん、遅番おそ
 いつも、早番はやでしょ?」
「そう、しかも、今日は元々休みだったんだけど、店長がアタシの写真を見た客が予約を入れたいと言われて、時間があるなら出てくれって」
「今日のおじさん?」
「そう。
 いい人でよかったわ」
「写真見て、しつこく聞く客って結構いるからね。
 アタシは結構断っちゃうよ、写真だけで指名する客」
「今回は店長が大丈夫だからっていうから信じて」
「何が根拠なんだろ?
 だいちさ、うち、外国人お断りだったはずよね?」
「今は『インバウンド万歳』だから、大丈夫そうな外国人はOKなのかも」
「変な薬とかは気をつけないとね。
 飲み物も要注意。
 アタシは絶対自分のカップは置いたり、目を離したりせず、手に持つようにしている」
「へぇ~。
 考えたことなかったわ、ありがとう」
「まぁ、偏見でしかないけど。
 実際さ、病気の方が見えないから怖いよ、どっちかっていうと。
 外国人はどんな病気持ってるか分からないからね」
「それはそうだけど、不潔客はもっと危険だよね?」
「確かに!」

 そこで麗泉はもう一回優李に話を振ってみて、何も出てこなければ、李班長の口の堅さを信じ、情報漏れはなさそうだと中佐に報告するつもりだった。

「アタシ、東京観光ですかって聞いたのよ。
 一応、田舎から出てきたってことになってたじゃん?」
「そう店長が説明したけどね」
「でね、東京の後、名古屋に行くって言ってたけど、なんだろうね?
 トヨタと仕事でもするのかな?」
「アタシの方は何も言ってなかったな。
 アタシの体をいじっているか、腰を振っているかで、忙しかったから」(笑)
「そうだったんだ!
 アタシも似たようなもんかな」(笑)

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 風俗嬢達も変な客の待ち伏せとか尾行を警戒してタクシーで移動したり、駅への道順を毎回変えたり、工夫をして行動パターンや個人情報を掴まれないようにしていた。
 こんな格好で駅まで向かっていたら、分かる人には「私達、仕事帰りの風俗嬢で~す!」と言っているようなものだったが、一応は遠回りしながら駅へと移動した。お陰で麗泉は優李から李班長以外のことをいろいろ聞けた。

「アタシ、こっちだから」

 優李は地下鉄の入り口ではなく、スーパーを指差していた。買い物をしてから帰るってことだったようだ。

「お疲れ様でした!
 アタシ、このまま地下鉄で帰るわ」
「じゃ、お疲れ様~」

 優李は手を振りながら道を渡っていった。麗泉は優李が渡った道を渡らず、右に折れてそのまま地下鉄の入り口を降りていった。改札を通り、地下鉄を待つ間、ハンドバッグから中国製のスマートフォンを出し、中佐にメッセージを送った。

<藩金蓮>
 同僚嬢から聴取した限りでは、
 李班長は何も話していなかった模様。
 安心してよさそうです。
陳港生チャン・コンサン
 連絡、ありがとう。
 了解した。
<藩金蓮>
 また、来週。
 早めに来店日時を連絡ください。
 店と調整しておきます。
<陳港生>
 他の予定が決まり次第、連絡します。
<藩金蓮>
 了解です。
 余談ですが、同僚嬢は班長が上手で、3回もイったそうです。
 それを受けて、私は彼女に、私は隊長に3回中2回イかされた、
 と言っておきました。
<陳港生>
 そういう話は…。

 ここで藩金蓮こと李静妹は、ふと手を止めて、今日のやり取りよりも中佐の動きを思い出していた。
 ダメと言っても中国からくる工作員は触ろうとするが、中佐は私の胸にも尻にも手を延ばさず、あのチャイナドレスにも欲情しなかった。
 日本人男性だったら秒で勃起するし、胸を触るか裾を捲ろうとするか、必ず行動を起こさせるくらい魅力的だと自分では思っていたのに…。
 あの中佐は任務に忠実な本物の軍人として知られているが、果たしてそれだけだろうか?太腿もかなり見せたのに、無反応だったが、手入れされた無毛の股間には瞬時に反応したということは、もしかして中佐は…。

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