月と六文銭・第十四章（３７）

　田口たぐち静香しずかの話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。
　高島たかしま都みやこは、ターゲットであるネイサン・ウェインスタインの謎の力の正体を掴めそうだった。

～ファラデーの揺り籠～（３７）

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　精神までは支配されなかったけど、完全に体は一瞬だが支配された。しかし、どんなエネルギーを注入されたんだろう。
　そうだ、今夜の様子は全てデイヴィッドが録画しているから、温度変化を記録したサーモグラフィー画像とか、磁気の変化を測定した結果とか、使えるかな。

「ネイサンはイけた？」
　実際に都は英語で「did you cum?（カム＝来た）」或いは「did you come?（カム＝来た）」と聞いていた。
「うん、気持ち良かったよ。ミヤコはちゃんとイけた？」
「ええ、恥ずかしいけど、全身が脱力するくらいイったよ」
「良かった！そろそろ抜いた方がいいよね？」　
「そうね。乾いたらこすれて痛くなるだろうし、イって締まっているから、何か入っていると痛くなっちゃうかな」
「そうだね。痛くなる前に抜こう」
「ありがとう」
　ウェインスタインはゆっくりとペニスを抜いたが、膣を長時間広げられていたせいか、抜かれた後も膣口は開いているし、膣口からかなり奥まで見ることができるような気がして、とても嫌だった。
「ネイサン、見ちゃだめよ、恥ずかしいから」
　都は自分の女性の部分がどうなっているか、実際に見なくても、かなり恥ずかしい状態になっている自覚があったので、ウェインスタインがペニスを抜いた後、さりげなく手で隠すようにした。
　ウェインスタインもその手をどけるような野暮なことはせず、静かに胸から手を放した。その瞬間、体がフワッと軽くなった気がした。心臓をぎゅっと掴まれていたのが解放された感じだった。そういう意味では、ペニスを抜かれて、下半身を内から広げようとする物理的な圧迫感はもちろん、外から圧迫するよう作られている瘦身ストッキングの様な圧迫感も同時になくなった。

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　都は自分の体のコントロールを取り戻した。起き上がって、すぐにシャワーに向かった。自分の部屋に戻らなくちゃ。早くこの部屋を出なくちゃ。
　しかし、焦っているとは思われたくない。落ち着いてシャワーに入り、何ならウェインスタインを誘って余裕を見せよう。
「ねぇ、ネイサン、シャワーはどうする？一緒に入る？」
「あぁ、ありがとう、あとで入るよ」
「分かった。私、明日朝早いから、帰る支度をするね」
「ああ」
　都は例のＹ字開脚をして、女性の部分を丁寧に洗い、全身のその他の部分は軽く洗ってシャワーを出た。体をざっと拭いて、バスルームを出た。
「ネイサン、素敵だったわ。本当に気持ち良かったよ」
　都はバスルームからベッドに直行し、まだ横になっていたウェインスタインにキスをした。
　ウェインスタインは手を伸ばして、都の胸を触ろうとした。
「ダメよ。またしたくなっちゃうから！」
「明日は？」
「またしたいの？
　うぅん、してくれるの？」
「ああ、君さえよければ、明日も、したいな」
「嬉しい！
　私は明後日、戻らないといけないから、東京宿泊は明日が最後なの。もう一晩、一緒に過ごせたら、嬉しいわ」

　都は何をしなくちゃいけないか、頭の中で整理したかったのだが、万一ウェインスタインに頭の中を読まれたら困るから、そういうことは考えず、旦那の顔を浮かべ、つまらない日常に戻ることへの不満を並べた。
「旦那さん、1週間もきれいな奥さんに会えなくて、寂しくなかったのかな」
「そういうことは言わないで。
　話したでしょ、彼とはセックスレスだということを。
　それと、あなたは私が結婚後初めて夫以外で関係を持った男性だということを。
　困らせないで、お願い」
　都は困った顔をしたが、すぐに気を取り直して、キスをした。
「また、明日、会ってね」
「もちろん、バーで待っている」

　都は自分の部屋に戻るだけなのに、意外ときちんと身支度を整えた。ベッドに近づいて再度ウェインスタインにキスして、ハンドバッグを肩に掛け、パンプスもきちんと履き、お辞儀をしながらエントランスを出て行った。
　もし誰かドアの向こうにいたら、ビジネスミーティングが終わって辞去するところに見えるようにしたかったのだ。
「本日はありがとうございました。
　失礼します！
　明日もよろしくお願い致します」
　大きくもなく、小さくもない声で都は部屋の奥に向かって話しかけ、背を廊下に向けたままドアを閉めた。
　廊下にホテルの監視カメラはないが、エレベーターホールにはあるし、今時の高性能360度カメラだと画面の端に自分の姿が映っていないとも限らないので、気を付けたつもりだ。