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月と六文銭・第二章(1)

 千堂せんどう綾乃あやのは特別機動捜査班に所属し、見えない敵を追い詰めることに情熱を燃やしていた。
 今回の任務は武器の横流しの証拠を掴むことで、舞台は新潟、武装した犯罪者との対峙を想定して、装備課と入念な準備を進めていた。

~ワンダー・ウーマン・トリュー・ストーリー~


 綾乃は自分で必要な道具を作ることもあり、これまでも“本部”の装備課に試作品の製作を依頼してきた。
 これまでの任務では、カチューシャ、ベルト、ヒールの中にUSBが隠せるようにしてもらったり、アクセサリーのように見える武器やメガネの中にカメラを入れてもらったりした。証拠集めのための道具の小型化は日進月歩で、最近は指輪やイヤリングにも通信機能が搭載され、リアルタイムでデータを飛ばすこともできるようになっていた。


 今回準備したもので、一番頼りになりそうだが、活躍してほしくなかったのが、ケブラー製のボディスーツで、綾乃の体型に合わせて作ったものだった。
 ベージュと黒の2セットを作ってもらったが、ベージュは服を脱ぐことがあっても、補正下着に見えるように工夫してあった。デザイン的には、随所に薄ピンクのレース飾りまでつけてもらって“チラ見”されても気が付く人はいなかっただろう。黒い方はドレスなどの下に着てもおかしくないようにというアイディアからだった。
 しかし、この防弾ボディスーツはSATなどの特殊部隊が装備している防弾チョッキのように厚手のものではないため、至近距離や大口径の銃器には効果が小さい、と技術者に注意された。
 基本的には胴を中心に体を保護するデザインで、動きを制約される訳ではなかったため、綾乃はストレッチやヨガなどで柔軟な体を維持し、素早い動きとこの防弾ボディスーツとの組み合わせなら被弾の可能性を格段に下げられると思っていた。


 そして、最近の新装備の中での綾乃の自信作は、ブレスレット型防弾ガードだった。ケブラーとチタンの多重層構造で、基本的には弾丸を弾くのが目的だった。腕にぴったり合うように曲がり具合を調整した結果、ある程度の口径までは弾丸を弾くことができた上、弾丸の弾かれる方向がコントロールできた。こうすることで、自分を守ると同時に、弾かれた弾丸で周囲の人をケガから守ることもできると考えたのだ。
 実弾テストに立ち会っていた上司の鈴木すずき征四郎せいしろうは、ワンダー・ウーマンみたいだな、と言ったが、綾乃はじめチームの全員と装備課の開発要員もキョトンとした。
 こちらはアクセサリー風に表面に彫刻模様を入れ、制服の時はブラウスの袖の中に入れて隠し、お出かけとの時などは逆に袖の外につけて、文字通りアクセサリーとして見えてもいいようにするつもりだった。


 『ワンダー・ウーマン』はアメコミヒーローに詳しくなかったら知らないヒーローだった。鈴木は昔米国駐在中にリンダ・カーター主演の70年代のテレビシリーズを見たことがあったのだ。当時はコミックスのヒーローがそうであったように、第二次世界大戦を背景にナチスの超科学兵器や怪人と戦う前提だった。

「こういうものは、使わずに済むのがベストだな」

 そう言いながら鈴木は装備課を出ていった。
 綾乃は鈴木の後姿を見送りながら、私も使わずに済むことを願っています、と心の中で返事した。

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