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月と六文銭・第十四章(55)

 工作員・田口たぐち静香しずかは厚生労働省での新薬承認にまつわる自殺や怪死事件を追い、生保営業社員の高島たかしまみやこに扮し、米大手製薬会社の営業社員・ネイサン・ウェインスタインに迫っていた。

 都は組織が用意していた隠れ家=セイフハウスに到着し、施錠を確認し、カーテンを確認して、「高島都」を脱ぎ始めた。取り敢えず次のステップは高島都でいる必要はない。

~ファラデーの揺り籠~(55)

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 都は玄関のカギを再度確認した。大丈夫。次に、マンションの窓の鍵をすべて廻って施錠されているか確認しながら、カーテンを閉め直した。

<取り敢えず外からは見られることはないね>

 都はバスルームに行って、洗面台の鏡の前に立った。
 都はまず、もみあげのところの接着剤を爪で剥がし、ウィッグを取って、漆黒のショートヘアに戻した。
 次に漆黒のカラーコンタクトレンズをはずして、茶色がかった瞳で鏡の中の自分を見つめた。
 マウスピースを外すと頬がほっそりして、シャープな表情のCIA工作員・田口静香に戻った。
 冷たい水で顔を洗い、手を丁寧に洗った。ワンピースの横のファスナーを下ろして、片方の肩の部分を頭の上から通して、床に落ちるに任せた。
 ペパーミントグリーンのブラジャーは手を後ろに回してはずし、ワンピースの上に落とした。しっかりと張りのあるEカップの乳房は細身の静香の胴と比べると、誰もが"大きい!"と感じる質量を誇っていた。
 ショーツはブラジャーとお揃いのペパーミントグリーンだったが、後ろがシア素材でスケスケ、フロントはレースで丁寧に手縫いされたフランス製のものだった。ドイツ"出張"の時にベルリンの百貨店でフランス製の高級品を購入していたのだ。
 少し残念な眼差しを向けながら、ワンピースをハサミで刻んでゴミ袋に入れた。ウィッグも留め具を取り除いてハサミで切ってバラバラにし、ゴミ袋に入れた。
 自分のピンクのキャリーケースから白いTシャツとスラックスを出して、それに着替えた。残りの物はクロゼットから出したデイヴィッドの青のキャリーバッグに移し、自分のピンクのはクロゼットに入れて扉を閉めた。
 ハンガーに掛かっているスカジャンを羽織り、デイヴィッドのキャップを被って部屋を出ようとした。玄関の姿見でキャップを見ると「LHD-7 USS Iwo Jima」と刺繍してある。

<ヴィッド、分かってて日本でこれ被らなかったのね>

 デイヴィッドが入隊した時、米海軍の強襲揚陸艦の乗組員だった。船の名前はイオー・ジマ。太平洋戦争激戦地の硫黄島に勝利した米海軍は1961年就役の強襲揚陸艦にこの名前を付け、2代目は2001年就役した。ヴィッドはその2代目艦の乗組員だった。

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 どれくらいの日本人が覚えているかは不明だが、ヴィッドは気を使ってUSS Iwo Jimaのキャップを日本では被らなかったのだ。このスカジャンも左下に横須賀港が刺繍されている本物で、元々は彼の父親の物だろう。そんな彼が日本で命を落とすなんて。
 静香はキャップを玄関のコート掛けに掛け直して、置いていくことにした。代わりにもっと普通な"ナイキ"のキャップを被った。

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田口静香の寝物語がいよいよ佳境を迎えたかと思いきや、意外な人物の関与が状況を複雑にしていく。 CIA工作員・田口静香が担当した危険なアサインメントの第四部に突入!

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