天使と悪魔・聖アナスタシア学園(06)
第六章
~降霊密会譚3~
ユリはゆり子に言われて、自分の中の性に関する考えをまとめ、「降霊で性欲を満たそうと思っている」とマサミに相談した。ユリが相手は隣の学校の聖也だと告げたら、マサミは少しほっとしたようだった。
ゆり子といい、優子、帆波、梨花、未希と自分たち4人以外の女子生徒は皆、肉欲を満たすために誰かを呼び出してもらい、西の部屋で誰憚ることなく悦楽の声を出していた。
死んだ人に会いたいとか、憧れの人と言葉を交わしてみたい、という可愛い理由なんてどこにもなくて、年頃だからなのか、彼女らはストレートに女の性の部分を主張した。
年頃の男子学生だけでなく、女子学生にも性欲があることをマサミも分かっていたが、ゆり子、優子、帆波、梨花、未希の5人は全員、クラス代表に選ばれる生徒たちで、勉強もスポーツもできるわけだが、隠していた性欲と執着心の強さに驚かされていた。
ゆり子、帆波の相手はアイドル男子の多いサニーズ事務所の歌手兼俳優だった。この年頃だったら珍しくもない選択肢。興味はないが、マサミにもこの選択肢は理解はできた。
梨花の相手は憧れの俳優だった。イケメンだったが、最近結婚して、梨花は寂しく思い、所謂「○○ロス」状態だった。それが、降霊で自分の気持ち(そして肉欲)が満たされた後は元気が出たようだった。まぁ、こちらもこの年頃の女子にありがちな選択肢で、アイドルとあまり変わらないというのがマサミの認識だった。
ところが、優子と未希の回については、全員にかん口令を敷く必要のある相手を呼び出していた。約束だから全員が沈黙を守っているが、優子は大好きな叔父(母の弟)、未希はなんと父親を呼び出して、西の部屋に入っていったのだ。
優子の願いの時は「そういうこともあるよね」と渋々依頼に応じたマサミ達4人だったが、未希の依頼にはさすがのマサミも呼び出していいのか躊躇した。西の部屋から聞こえる未希のあの時の声にはどう反応していいのか、全員が互いを見合わせ、頭の中の混乱がそのまま顔に出ていた。そして、部屋から出てきた未希の嬉しそうな顔を見たら、全員が降霊どころではない、もっと大きな秘密を抱え込んでしまったと認識した。
因みに、優子の学校の保証人にあの叔父がなってくれていて、叔父の方は優子と普通に接しているが、優子の方が彼を好きらしい。彼女が思い切って告白でもしたら、家庭内だけでなく親戚全員を巻き込んだ大問題になることを自覚しているからこそ、優子はこういう方法でしか望みを叶えることができないと考えたようだ。マサミたちは大幅に譲歩をしたつもりだった。
しかし、未希の場合は、問題がもっと根深いと思われた。例えば、亡くなった父に会いたいと望んだのなら、霊を呼び出して話せばいい。降霊ではよく呼び出される対象が亡くなった親戚だ。
だが、その時未希が求めたのは、生きている父の霊を連れてきてもらうことだった。自分も一緒に住んでいる家の、母親と一緒に寝ている両親の寝室から、ルキフェルに父の魂だけを連れ出してきてもらいたいと主張したのだ。
そして、友人が8人もいる部屋の隣の部屋で、未希は誰憚ることなく、嬌声を発しながら連れて来られた父(の霊)と交わったのだ…。
「マサミ、未希の闇、深過ぎない?」
スミレは心配で、マサミに声を掛け、翌日4人で相談することにしたのだ。
「未希の要望があまり頻繁にならないよう気を付けるのはどう?」
これがサクラの提案だった。
「批判はあると思うけど、一度ルールを決めたのだから、それを守らないとフェアじゃないよ。未希のその主張は正しいよね」
ユリは戸惑いながらも、今の降霊会のメンバーの離反が心配で、未希をグループ内に取り込んでおく方策を提案した。
「あそこまでの秘密、誰もしゃべらないし、しゃべっても信じてもらえないから、そのままでいいと思う」
マサミは冷静に状況を分析して、自分の方針を提案した。
「ただ、あまりにも倫理に反する行為だとも思うから、サクラの言う通り、頻度をコントロールするしかないね。幸い9人もいれば自分の番が来るまで待つでしょうから、早くても二月に一回だし、次回は別の人を呼び出したいというかもしれないよ、亡くなったおばあちゃんとか」
そんなことはないだろうと、発言したマサミ自身を含め4人ともが分かってはいたが…。
あの嬉しそうな未希の顔。高校生にしては異常に艶っぽくて、女として満たされた感じが全身からにじみ出ているように感じられた。家庭内では何も問題はないと未希は神(悪魔?)の前で誓ったとおり、多分両親の前では自分の欲望を抑え込んでおもてにだしてはないのだろう。
もしかしたら両親は仲が悪いとか、未希は母と対立していて父を味方につけたいという心理なのだろうか。幼少期に父に虐待とか性的に悪戯されたことはあり得るのだろうか?いろいろ考えると4人とも頭がパンクする気がして、ユリの「そろそろ塾に行くね」がこの日の相談を終える一つのきっかけになってくれた。
この日もユリはゆり子と塾に一緒に向かっていた。
「ねぇ、ゆり子、未希のこと」
「それはマサミがしゃべっちゃダメと言った話だから、ダメだよ」
「そうだね」
「話さない方がいいよ。自分でいうのもなんだけどさ、正直、アイドルとしたがる女子高生なんて、ほんと健全なんだろうなって思ったよ」
「うん、そうだね」
「そうよ!あ、そういえば、ユリは本当に彼としたらいいじゃん。そこにいるんだし、生身の人間だよ。好きなんでしょ?好きな人とするのが一番健全で健康的で正常だよ!」
そうだよね。健全な女子高生なら好きな人と一緒にいるのが一番幸せじゃん!必ずしも焦ってエッチしないといけないことはないし、今の話だとゆり子が聖也を取っちゃうことはなさそうだし。まずは声を掛けて、帰り道、カフェ・ラフェスタに一緒に行ってみようかな。わぁ、なんて健全な女子高生をしているんだ、私!
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