上手くいかないのは「天気のせい」、そのぐらいゆるくていい〜スランプさんいらっしゃい・5歳さん対談〜
株式会社ディー・エヌ・エーが運営するマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」。
有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、オリジナル作品の『ホリデイラブ』はTVドラマ化、『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。
そんなマンガボックスの編集長を務めるのは安江亮太さん。多くの事業を束ねてきた安江さんはこれまで数々のクリエイターや社員の悩みに乗り、解決に導いてきました。
今回は株式会社アマヤドリ社長、5歳さんとの対談企画。前後編の後編は5歳さんが仕事で大事にしている考え方や、失敗についての考え方などについて聞いていきます。
※この対談は2020年2月28日に収録したものです。
前編はこちら↓
大きなビジョンより、自分の半径5mにいる人を喜ばせ続けるということ
安江:(前編では)借金の話や自己肯定感などについて話していただきました。スランプを乗り越えた5歳さんが今、仕事する上で大事にしていることはなんですか?
5歳:そうですね、クライアントと読者を喜ばせることですかね。僕あんまりビジョンとか夢がなくて、「5歳さんこれやってくれませんか?」って言われて、それに応えるのが楽しくて仕事を続けているんですよね。だから、「これ5歳さんだったらどうします?」と相談されたら、もちろんアイデアは出しますが、そこに「僕がこうしたい!」というのはないんですよね。自分の周りの人を幸せにしていけたらそれでいい。
安江:僕が就活していた10年前ぐらいはベンチャー企業が出てきたタイミングもあって、「俺たちが世界を変えるんだ」とギラギラしていたんですよ。でも最近はそうじゃなくて、「自分の身の回りにいる人たちを幸せにできるプロダクトを作る」という意識が強いですよね。やっぱりそっちのほうがナチュラルだし、成功している人も多いなという印象があります。
5歳:わかります。僕、マザーテレサが好きなんですけど、一つ好きなエピソードがあって。マザーテレサがノーベル平和賞を受賞した時に「世界平和をするために自分たちは何をすればいいですか?」と聞かれたとき、「家に帰って家族を愛しなさい」と答えるんですよね。
5歳:要するに、自分たちにできることって自分の半径5mの世界でしかないから、みんながそこを幸せにすれば本当に世界平和になると。さっき言った話でいうと、「ジャンプに載ってやる!」とか「世界を平和にしてやる!」というよりも、まずは自分の周りが何をしたら喜ぶのかなと考えることが大切だと思います。
安江:そうですね。
5歳:それをもっと、10m、15mとちょっとずつ広げることはできるかもしれないし、会社を作ればもっと大きい規模でできるかもしれない。でもやっぱり僕の基本は、まず自分がいて、僕の周りにいる身近な人を喜ばせることなんですよね。
安江:5歳さんのTwitterをみていても、すごくゆるくて、そう考えなんだなというのを感じていました。「仕事とはこうあるべきだ」とかを語らないので。
5歳:いや僕ね、ここにいる高山さんみたいに、ずっと馬鹿をやって生きていたいんですよ。馬鹿というと言葉悪いですけど、すごいリスペクトしていて。僕、将来こうなっていたいんです。
高山:嬉しいですね。
▲横で話を聞いていて、突然褒められた高山社長
安江:なんで高山さんなんですか、よりにもよって(笑)。
5歳:どんなときでも、くだらないツイートをしているじゃないですか。世間はコロナ一色になっていてシリアスだし、もちろんコロナのことは真剣に考えなきゃいけないと思います。でも一方で、ああいうくだらないツイートがないと均衡が崩れちゃう気がしていて、高山さんはその役割を担っていてすごいなあと。
高山:もちろん、全部計算です。
安江:ちょっと、嘘つかないでください(笑)。でも確かに、SNSをみていると皆が何かに怒っていますよね。
5歳:そうですね。やっぱり怒る感情が一番共感を得やすくて、それに合わせてツイートやニュースが作られてしまう。ということは人は情報の波に揉まれちゃうと自然に怒る気持ちが湧いてきちゃうんですよね。僕はそれで自分の感情が動かされるのは嫌だなと思っていて。高山社長はAV女優にずっと絡み続けて、本当に素晴らしい活動してますよね。
怒りが湧いたら、ユーモアも持って反論する
安江:5歳さんもくだらないツイートしてますよね。朝みたエロい夢の話とか(笑)。ああいうのって怒られたり叩かれたりしないんですか?
高山:馬鹿なツイートは怒られないんじゃないですかね。
5歳:そうです。徹底して馬鹿をやっていれば怒られないですね。自分のことを良くみせようとか賢くみせようとする人がいるんですが、僕らのやっていることは逆なんですよね。だから高山さんも僕もアンチがいないんですよ。
安江:確かに高山さんや5歳さんのツイート見て「不謹慎」という人はいなさそうですね(笑)。でも5歳さんや高山さんも怒るときありますよね。そういうときはどうするんですか?
高山:実は普段、結構怒っているんですよ。でもそれをアンチテーゼにしています。
5歳:なんかかっこいいこと言いそう(笑)。
高山:「成功する7つの法則」と箇条書きツイートしたり、AV女優にクソリプを送るおじさんがいたりして、そういうのをみると怒りが湧いてくるんですよね。でもそういうツイートにただ反論するんじゃなくて、「空が飛べる人の特徴」とスピッツの歌詞を箇条書きで書いたり、面白いクソリプを考えたりして、ユーモアを持って反論しなければならないんです。
安江:ユーモアのあるツイートで自分の心の均衡を保ってるんですね。
5歳:わかります。それを誰にも悟られないようにやるのがいいんですよね。
安江:あれだけ毎日ツイートをしていて、それこそTwitterスランプみたいなのにはならないんですか?
高山:Twitterスランプ、なりますよ。Twitterって一回バズるとドーンって波が来て、そのときは何やっても受けるんですよね。昔『ルノアール理論』というのをやっていたときなんかは、すごい勢いがあったんですよ。でも、すぐ飽きられてしまって。そうするとフォロワーがつかなくなるんですよね。それから3ヶ月ぐらい長く続けることで、またつくようになってきました。
5歳:それは高山さんが『ルノアールの人』じゃなくて、きっと「高山社長自体がおもしろい」と変わって来たからですよ。「この人何やっているんだろう」と思われるようになったから、一回落ち着いたけど、社長に対しての人格にみんな興味を持ち始めたんだと思います。
高山:良い分析です。
安江:なんで上から目線なんですか(笑)。
5歳:僕も嫁のことを中心にツイートしていた時期は、毎日何千人単位でフォロワーが増えていたんですけど、結局飽きられてしまいました。だから僕はそのフェーズは終わったなと思っていて、もう何ヶ月も嫁ツイートをしていませんね。それでフォロワー数がどんどん減り続けているんですけど、僕はそれでもいい。どんどん面白いことを仕掛けていって、それを面白がってくれる人がフォローしてくれてればいいし、「嫁ツイートがないんだったら外すわ」という人がいてもそれは仕方ないなと思っていて。
安江:アカウント名が「嫁公認アカウント」から「株式会社アマヤドリ」に変わったのがまさにそれを表していますね。
5歳:嫁不機嫌でしたよ……。「今まで私をコンテンツにして甘い蜜吸って来たのに私のこと捨てるんだ」って(笑)。でもそれはフェーズが変わったんだよ、と説明しました。僕はこれから起業する予定なんですが、「会社をやっていく上でどういう面白いことができるのかを見せていかなくちゃいけないんだ」と。だから、今の僕のツイートが跳ねることはないかもしれませんし、それは過渡期なのでしょうがないと思っています。
安江:スランプというよりも、方向を変えているわけですね。
自己責任論が強すぎるから、みんなを笑わせるピエロみたいな存在が必要
5歳:そうですね。でもまあ、そんなこと言ってますけど、僕も肝煎りの記事が全然バズらなくて凹みそうになるときもあるんですよ。そんなときは天気のせいにしていますね。
安江:天気ですか?
5歳:やっぱり社会って同調していると思うので、天気や気温が良くないとリツイートする気も起きないじゃないですか。例えば、冬にかき氷を出されても食べたくないけど、夏の暑いときだったらむしゃむしゃ食べるじゃないですか、そういう感じで。だから失敗しても「日が悪かったのなあ」と考えることで気持ちを楽にしています。
高山:関係ないもののせいにするっていいですよね。
5歳:失敗は自分のせいという「原因自分論」が日本では強すぎるかなと思うんです。
うつ病で自殺してしまう人が多い中、いろんな理由があるとは思いますけど、「自分のせいだ」と自責の念が強すぎてしまうのが原因の一つだと思うんですよね。
だから、僕や高山さんぐらいのエッセンスを注入するくらいでちょうどいいんじゃないかなと思いますね。みんな大丈夫、ちゃんと責任感あるから。
安江:そのゆるさがほしいですね。誰かの失敗することについてはどう考えているんですか? 仕事でも部下や自分が頼んでいた方が失敗することありますよね?
5歳:そうですね、そもそも人に期待しすぎなのかなと。僕はあんまり人に期待しないんですよね。今編集長とかもやっているんですけど、どうしても締め切りに遅れちゃうライターが出てきますよね。締め切り遅れる苦しみとか、申し訳ない気持ちとかがわかるから、ぜんぜん責めないですし、逆に締め切りが遅れることを前提にスケジュールに組み込むことで、仕事が少し楽になるのかなと思います。
安江:なるほど。取引先や上司にこういう人がいたら楽だろうなと思いますね。
▲途中から話を聞きにきたエードット広報・風間さん(左から2番目)
5歳:会社のなかにピエロが1人いればいいですよね。アメリカの会社だと笑わせるおばちゃんとかがいると聞いたことがあります。僕も「あの人がいるとちょっと気持ちがオープンになる」というピエロみたいな存在になりたい。ちょっとピリついた会社でも、高山さんとか僕みたいな存在が入れば潤滑油みたいになるんじゃないかなと思います。
高山:昔、炭鉱には作業している後ろでひとりだけ笑わせる人がいたらしいんですよ。その人がいることで効率よくなるそうで。
安江:緩急つけやすいのかもしれませんね。
5歳:猛者みたいな人たちが集まって仕事しているから、そういう笑いとか、ゆるくなるところは必要だし、これからもっと求められていくんじゅないかなと思います。
高山:とにかく真面目ですよね。だから僕はツイッターの中でピエロの役を買って出てるわけですし。
5歳:いやーやっぱりさすがですね、高山社長!
安江:ピエロ同士で褒めあっててもダメでしょ(笑)。
(終わり)
■出演者プロフィール
安江亮太(写真左)
DeNA IPプラットフォーム事業部長 / マンガボックス編集長
2011年DeNAに新卒入社。入社1年目の冬に韓国でのマーケティング組織の立ち上げを手がける。2年目に米国でのマーケティング業務。その後全社戦略の立案などの仕事を経て、現在はおもにマンガボックス、エブリスタの二事業を管掌する。DeNA次世代経営層ネクストボード第一期の1人。
Twitter: https://twitter.com/raytrb
5歳(写真右)
1983年生まれの37歳。7つ年下の嫁と、息子2人の4人家族。日々の家族日記をTwitterにつづる。好きなものは、嫁、息子、ビール、本。嫁に「これから子どもにお金が掛かるぞ〜」と毎日耳元で囁かれている。5歳さんと嫁と息子たちとの、ドタバタで愛情たっぷりの生活を漫画にした『ぼくの嫁の乱暴な愛情』(KADOKAWA)が発売中。また、現在会社設立のために奮闘中。
Twitter:https://twitter.com/meer_kato
ライター・撮影:高山諒
企画:おくりバント
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