女騎士マルガレータの華麗なる食卓#1軟骨入りつくね

その日、マルガレータは憤っていた。
昨夜、酒場で食したつくねがなんかイマイチだった怒りが今になってぶり返してきたのだ。
マルガレータは馴染みの店を作らない。
迷宮都市の治安を預かる警邏隊の一員として、特定の店を懇意にすることで万が一にも癒着などを疑われてはならないからだ。
嘘だ、本当は数回行っただけの店で「いつもありがとうございます~」とか言われるとなんか気まずくなってその店から足が遠のいてしまうだ。
そのため、必然的に新しい店を開拓することになる。
新規店舗の開拓はこれまでにない味に出会える喜びがある反面、今回のように外れを掴んでしまう可能性がある。
店主の名誉の為に断っておくが、けして不味い物を出す粗悪な店だった訳ではない。店の雰囲気も良かったし、実際に賑わっていた。ただ、ただつくねがイメージと違っただけなのだ。マルガレータとてその事は理解している。理解はしているが、だからと言ってそれを飲み込めるほどマルガレータは人生を諦めてはいなかった。

昨夜、店選びに失敗した以上、新規の店に挑戦して二連敗することだけは避けたい。
さりとて美味いと分かっている店に行くのも嫌だ。だいたい顔を覚えられたくない。
そうなると必然的に、自分で夕飯を作ることになる。
仕事が遅くなり、外食で済ませる事の多いマルガレータだが自炊が嫌いなわけではない。むしろ自分で心行くまで好みの味を追求できる自炊の方が性に合っているともいえる。
今日は、自分でつくねを作ろう。つくねの仇はつくねで取るんだ。マルガレータは心に固く誓った。

大体昨夜のつくねは柔らかすぎたのだ。つくねとはガッチリとしたもので在るべきという思想を持つマルガレータにとって、ツナギをふんだんに使用したフワフワとしたアレは在り得ざる存在であった。確かにつくねの魅力は柔らかさだが、口の中で解けるようなものではなく、ある程度の噛み応えがあるべきものだ。中に軟骨を砕いたものが入っているとなお良い。
そんな事を考えながら食材を買いそろえていく。
鶏ひき肉と軟骨、そして大蒜、生姜、小葱。材料はこれだけで十分だ。

大蒜、生姜、小葱を細かく刻み器に入れていく。
マルガレータには料理をする時に取り合えず大蒜と生姜を入れる癖があった。
勿論合う合わないは熟考しているが、合うと思ったら迷わず入れる事にしている。理由は特にない。ただ好きなだけだ。強いて理由を挙げるなら歯ごたえと香りづけだろうか。
次に軟骨を細かく砕いていく。多少硬く、包丁では細かくしづらいがマルガレータとて女だてらに騎士をやっていない。日々迷宮上がりに気の大きくなった酔漢達を容赦なく叩きのめしている。力仕事には自信があった。
軟骨を切り終われば、あとは材料を混ぜ、焼くだけだ。
途中から存外楽しくなってきていっその事、串にさして焼こうかと思ったが肝心の串の備えが無かったので諦めた。今度の休日に買い置きをし置くことを決めた。

じゅう、という音を立てつくねが焼けていく。ある程度火が通ったら醤油と砂糖を混ぜたタレを流し込み照り焼きにする。
煮詰めていき、焦げつく寸前になったらつくね達を取り出し皿に盛りつける。
そして食卓に移り、祈りを捧げ、かぶりつく。
美味い。甘辛いタレが脂と絡み絶妙な味わいになっている。何より軟骨と生姜の微妙な食感の違いが一口毎に違った顔を見せてくる。

気が付けば皿の上のつくねは全てマルガレータの腹の中に納まっていた。
流石に至高という程自惚れてはいないが、少なくともマルガレータがかくあるべしと考えるつくねの系譜上には存在していた。
マルガレータは忌まわしき記憶に打ち勝ったのだ。

今度作るときは大葉を入れても美味しいかもな。
パンパンに張り詰めた腹でマルガレータは思った。

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