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消えゆく縁起物と招き猫

私が生業として作ってる「張子人形」は江戸時代から続く工芸品です。
その人形のモチーフは古くから人々の風俗に密接にかかわっているものが多く、その土地その土地に古くから伝わる特色が色濃く反映されてきました。そのため「郷土玩具」として今まで伝わってきました。
分かりやすい例だと福島県の赤べこが挙げられます。福島県の伝統工芸品ですね。農耕が盛んだった、という特色が挙げられます。
その他にもクジラ漁が盛んなところはクジラの人形、南蛮人の往来があった地域は南蛮人形などが作られていました。

その一方で広く日本で取り上げられてきたモチーフがあります。干支なんかが最たるものですが、やはり何といっても「縁起物」ですね。

商売繁盛、学業成就、健康祈願、ありとあらゆる縁起担ぎのモチーフはどの地域であろうと日本中で作られ愛されてきました。

年中行事のように、1月は干支、2月は節分(鬼やおかめ)3月は雛人形、4月は仏様、5月は五月人形、梅雨時期は蛙、秋になると招き猫、年末になると受験シーズンに重なり天神人形、恵比寿大黒、達磨、などと季節によって求められる縁起物が変わっていました。

その他、河童、フクロウ、狐(お稲荷様)、虎、天神、仙台四郎、福助、達磨、七福神、鬼、犬張子、鐘馗様、などなど、数え上げれば枚挙にいとまがないほどです。

実感として、1990年代くらいまでは、まだまだ縁起物が数多く作られ消費されていたような気がします。
お客様も上記アイテムを縁起物として「知って」いましたし、コレクターとして収集されている方も非常にたくさんいました。

ただ、時が経つにつれてコレクターの方は減っていき、若い人も興味が薄れていっているなあ、とは思っていましたが・・・。

そうして時は移ろい、2020年の現在は、、、、結果としてほとんど需要がありません。

上記にあげた縁起物でも知らないものの方が多いかもしれません。

五月人形として人気のあるモチーフは今でも「桃太郎」「金太郎」ですが、かつて定番だった「鐘馗様」を知っている人はほとんどいません。

更には受験シーズンでは欠かせなかった「天神様」。学問の神様菅原道真ですね。
歴史の勉強で習うはずである有名人ですが、こちらも知っている若い人はほとんどいなくなりました。(何故だろう?)

天神人形を見た方から
「このお侍さんは、誰ですか?」
と質問され、天神ですよ、と言っても伝わらない事の方が多いため、
「菅原道真です」
といっても
「え?誰?」
と言われてしまいます。似たようなもので仙台四郎、福助も同じような環境にあります。

「欲しいんだけど、最近七福神を売っているところを探すのが大変だし、そもそも見ない」

「店先に福助を飾っているお店も見なくなったよね」

という声を聞くことがあります。

私も
「昔から伝わっているものなので、作ることは出来ますが、需要がないので作っていません」
と答えるしかありません。

縁起物というものへの関心が希薄になってしまったのでしょうか。


でもその一方でまだ元気に活躍しているのが「招き猫」なんですね。(最近ではアマビエなんて縁起物も登場しましたが、はてさて)

猫ブームがあったというのもあるのでしょうか。色んなバリエーションを作りやすいというのもあるのでしょうか。

日本の伝統から見て、作り手側は制作・販売だけではなく「文化を伝えていく」という側面も担うことも大事なのかなと思っています。



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