011酔っぱらいの夢が叶った日1

11 酔っぱらいの夢が叶った日(その1)

酔っぱらいとして生まれたからには、死ぬまでに一度は体験してみたい。これをしないうちは肝臓ガンになるわけにはいかない。そういう夢があった。もったいぶらず率直に書くと「アジアの屋台で飲むこと」だ。国はどこでもいい。ベトナム、韓国、タイ、シンガポール、インドなんかもいい。

日本では、たとえば福岡県の中洲に屋台がズラリと並ぶ一角がある。いちどだけ行ったことがあるが、なんとも心浮き立つ場所だった。あるいは、大阪の京橋にも立ち飲みの屋台が並んでいるところがある。関西パワー溢れるエネルギッシュな空間だ。そして東京なら、浅草のホッピー通りだろうか。屋台ではないけれど、限りなく露天に近いスタイルの店が軒を連ね、昼間からにぎわっている。

これらに共通するのは、「猥雑さ」と「解放感」の共存だろうか。酒を飲む場に、美しさや、上品さ、あるいは高級感などといったものをビタイチ求めていないぼくのような人間には、こうした屋台村がなんとも居心地いい。

そして猥雑さといえば、なんといってもアジア諸国にはかなわない。いつか、アジアの屋台で酒を飲みたい。そのためだけに旅行をしてもいい。旅費が安くて、それでいてアジア感を味わえる場所といったらどこだろう? やはり韓国か。あるいは台湾もいい。中国、インド、ベトナム……。

と、そんなことを考えていたところに、ある友人から旅行の誘いがあった。「ももクロの追っかけでマレーシアまで行くんだけど、誰か一緒に行かない?」と。

これだ! と思ったぼくは、即座に手を挙げた。ぼくは海外旅行の経験が乏しいうえに、マレーシアといったらASEANの一員だっけ? という程度の知識しかない。そもそもマレーシア語はおろか、英語だっておぼつかないのだが、誘ってくれた友達が東南アジアの旅行には慣れているので、なんとかなるだろう。不安はない。そこで、すぐさま準備にとりかかった。

結局、マレーシアには二泊三日のスケジュールで出かけていき、二晩ともホテル近くの屋台村(というか浅草のホッピー通りに近いイメージ)で飲んだくれていただけの旅だったが、結論を言えば「最高!」だったのだ(ももクロの話は本題ではないので省く)。

長いあいだ思い描いていた夢というものは、脳内でどんどん理想化されていくものだから、実際に体験してみるとたいしたことない、なんてことが多い。ところが、マレーシアの屋台で飲む酒は想像していたより10倍くらいよかった。

それを体験したのが3年くらい前のことなので、すでに記憶が曖昧になってきているが、日記を頼りに振り返ってみよう。

マレーシアの首都クアラルンプールから、モノレールで5駅ほど行ったところにあるブキッ・ビンタンという非常に発音しにくい街に、ぼくらは宿をとった。そこから徒歩で5分くらいののところに、マレーシアの浅草はあった。

通りの左右に料理屋がズラリと並び、それぞれの店の前にテーブルと椅子が雑然と置かれている。基本、どの店も路上で飲み食いするようになっているのだ。周囲を見渡してみても、どこも一様に混んでいる。だが、ところどころやけに空いている店もある。なぜかと思ってよく観察してみると、そういう店は真向かいがドリアン屋だったりするのだ。慣れればうまいのだろうけれど、このあたりはぼくらも含めて観光客が多いので、やはりドリアンは敬遠してしまう。

適当な店に席を取る。ぼくはメニューを指さし、英語のできる友人が注文を伝えてくれる。

ガイラン(中国野菜)の炒め物、貝とレタスを何かで和えたもの、揚げたカニ、バクテー(肉骨茶)……もう何を食べてもうまかった。店のおねえさんがヘンな黒いものを持ってるので、それは何かと聞いてみたら「スティングレイ」だって。つまり、エイヒレだ。焼いてもらって食べたけれど、泥臭くておいしくないので、残してしまった。

……というところで文字数が尽きた。続きは次回!

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