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15 きみは何上戸?

川崎から乗った東海道線の車内に、いかにも茅ヶ崎あたりで飲んで来たらしい酒臭いグループがいた。彼らは、電車が品川に着いたところで降車していった。ところが、そのグループのうちの一人がまだ座席で寝ている。その彼だけは、降車駅が品川より先なのだろうか?

そうではないことは、グループが電車を降りるときの会話でわかった。

「あいつ起こさなくていいの?」
「寝てるヤツが悪いんだ」
「フハハハ!」
「おいてっちゃおーぜ」
「また明日ー」

などと言って笑いながら、寝ている彼を乗せた電車が発車するのを見送った。これ、ちょっとびっくりしたね。全員スーツ姿だったので会社の同僚か、あるいは学生時代からの友人なのかもしれないが、いずれにしても一緒に飲みに行くほどだから、それなりに仲良しのはず。それが、酔ってる仲間を起こすこともせず、そのまま放置してしまう。それを笑い話として消費する。

すごいなあ、世の中にはそういう友達関係もあるのか。

いやいや、今回は、そんな人の良心とか、善悪の境界の話をしたいのではなかった。酔うと寝る人、の話である。

かつてのぼくは、よく酒場で寝る人だった。とくにビールがダメだ。ビールを飲むとつい寝てしまう。アルコールの種類と催眠効果の因果関係が研究・立証されているのかどうかは知らないが、ぼくはビールを飲むとてきめんに眠気を催す。ウイスキーや焼酎ではそんなことはない。

生活時間の影響というのもあるだろう。ぼくは若い頃から朝型で、午前中から午後の早い時間にかけて集中的に活動する。その結果、日が暮れてくると眠くなる。でも、江戸時代じゃあるまいし、現代社会は夕暮れくらいでは人を解放してくれない。

友人たちと飲もうということになると、午後7時とか8時に集まって飲み始める。9時、10時と時間を追うごとにみんなノリノリで盛り上がっていくのだが、10時を回った頃のぼくは、もう眠さ限界で舟を漕ぐことになる。何度、酒場でうなだれている写真を撮られたことか!

最近は、家族の朝食と夕食をぼくが作っている関係で、夜に飲みに出かけることはほとんどない。そのかわり、自分の自由になる時間が午前11時から夕方の5時くらいまでなので、勢い飲みに出かけるのは昼間になる。ぼくがもっとも元気な時間帯だから、そこで眠てしまうことはなくなった。

酒飲みの癖(へき)に「~上戸(じょうご)」という言葉がある。酒に酔うとすぐに泣く「泣き上戸」、逆に笑いが止まらなくなる「笑い上戸」。その伝でいくと、ぼくはさしずめ「寝上戸」だろう。

だが、そんなぼくのずっと上をいく寝上戸がいる。酒場ライターのパリッコくんだ。彼は寝るねえ。一緒に飲みに行くと、ほぼ必ず寝る。カウンターに突っ伏して寝る。寝ながら飲んでるといっても過言ではない。「寝る子は育つ」とは言うけれど、なるほど酒場ライターとして目覚ましい急成長を見せたのは、そこに秘訣があったのか。酒漫画の巨匠ラズウェル細木さんと一緒に飲むぞというときにも、初対面でいきなり寝たのには驚いた。皮肉ではなく大物だと思った。

以前、人に聞いた話だが、超能力者のエスパー清田くんは、酒に酔うとつい手元にあるスプーンを曲げてしまうという。無意識につかんではグニャリ。つかんではグニャリ。つまり「曲げ上戸」ってやつだ。店にとっては迷惑な存在ですな。

というわけで、夕方のファミレスで赤ワインなど飲みながらこれを書いているぼくは、そろそろ眠くなってきたようだ。おやすみなさい、また来週──。

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