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25回 酒温度について考える その2

仲のいい友達だからといって、一緒に酒を飲んでも楽しいとは限らない。むしろ、バカ飲みして泥酔したり、唐揚げに勝手にレモンをかけられたり、実はクチャラーだったりというように、なまじっか酒席を共にしたことで、その人物の欠点に気づいてしまうこともある。

その逆に、やたらと気の合う奴もいる。まず、好みの店がだいたい同じ。酒の飲み方はあくまでもマイペースで、人に強要したりしない。つまみも自分が食べたいものを自分の分だけ頼む。ようするに、ひとり飲みが好きな仲間がたまたま集まって飲んでいるイメージ。一緒に飲みに行っても、必要以上に干渉し合わないのが、心地いい。

そういう仲間のことを、ぼくは「酒温度が同じ」と表現している。酒を飲むことにまつわる様々な要素の波長が合う人、酒場の気持ちよさを同じ温度で体感している人、そういう奴らと飲む酒は本当にうまい。

これまで、このエッセイに登場させてきた酒友は、ぼくと同じ酒温度を持っていると感じている仲間である。

酒場の善し悪しを決める要素とはなんだろう? 店舗の造作、暖簾の書体、店内カウンターの清潔さ、あるいは汚さ(ときには汚さも味わいとなる)、店員の人数、その働きぶり、酒や肴の種類と味付け、提供されるスピード、そして料金。

これらのすべての要素に対して自分と好みが合致する相手なんてのは、なかなかいない。それでも、だいたい七割、せめて五割も一致すれば、そいつとは酒温度が同じだと感じられ、楽しく酒が飲める。

ぼくの若い酒友達にPくんというのがいる(※注:酒場ライターのパリッコくんのこと。初出時はイニシャルにしていたが、いまや日本列島を飲み尽くす勢いで精力的に執筆している)。

パリッコくんは、いい店を見つけ出してくるのが天才的にうまい。それはとてもリーズナブルなビヤガーデンだったり、町のなんでもない中華屋だったり、菓子職人が趣味でやってる隠れレストランだったり、吹き抜ける風が気持ちいい川原の茶屋だったり……。そのどれもが全部ホームランという打率の高さだ。

たとえば安さが自慢の店だとしても、安いから当たりなのではない。安くたって店が汚いから嫌だという人もいるだろうし、川原の風が気持ちよくても店内に動物がいるのはちょっと、という人もいる。でも、ぼくにはこれらの店がいちいちツボに入ってくる。いいところも悪いところも含めて「なるほどなあ」と納得できる。この「なるほどなあ」は寛ぎの感嘆符だ。彼が見つけてくる店には、いちいちその「なるほどなあ」がセットでついてくる。酒温度が同じというのは、つまりはそういうことだ。

いい店をもったいぶらずに教えてくれる飲み友達はいい奴だ。そして、酒温度が同じ友達は、さらに似たような温度の友達を連れてくる。その友達もまた、自分の生活圏にあるいい店を教えてくれる。そうやって、仲間内でのいい酒場情報が充実していく。この幸せの連鎖は、どんな燗酒よりも温かい。

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