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49 アルプスで飲む

かれこれ15年ほど前の冬。酒友2号のモ氏とスキーに出掛けたときのこと。道中で飲む酒を買うため、ぼくらは酒屋に立ち寄った。すると、そこには「清酒・大統領」なるものが売られていた。何かにつけ、うまさよりおもしろさを選んでしまう我々は、他にもっとよさげな酒があるにもかかわらず、その「大統領」の5合瓶を購入した。

さっそく行きの車中で飲んでみた。味はうまからず、まずからず、まあそれなりのものだ。しかし、酒なんて酔えりゃいいのだから文句はない。それよりも、瓶のラベルに印刷されていた能書きに笑った。そこにはこんなことが書かれていたのだ。

「清酒大統領は、厳選されたカリフォルニア米を使い、シエラネバダ山系の伏流水で仕込んだ……」

しばらく二人のあいだでは「厳選されたカリフォルニア米」と「シエラネバダ山系の伏流水」が流行語になったものだ。

さて、そんな話と関係あるようでまったく関係ないのだが、今夏(2015年)はモ氏とアルプスで飲んできた。いや、アルプスと言っても山脈の方ではなく、アルプススタンド、すなわち甲子園球場である。

真夏の甲子園で高校野球を見るのは、いろんな意味でアツい。試合の行方も熱いが、日差しも暑い。そんな場所で冷たいビールを飲んだら、さぞかしうまいことだろう。スポーツ観戦の趣味がないぼくではあるが、いつかは体験してみたいものだ。……と、そう思っていたら、そのチャンスが今年の夏にやってきたというわけだ。

こういう話を進める場合、我々が観戦したのは○○○高校と□□□高校の第△試合、と書くべきなのだと思うが、何しろ野球に興味がないので、試合のことなどまったく覚えていない。覚えているのはたくさん高校生がいたなー、ということくらいだ。

そんなことより酒の話をしよう。

客席スタンドでは、タンクを背負った女の子たちが生ビールを売りにくる。これはこれで最高ではあるが、いささか高くつくので、財布が薄っぺらいぼくはそんなものをガブガブ飲むわけにはいかない。

とはいえ、こちらも大人なのでね、場外で買ったものを持ち込むのはルールに反することだというのはわかっている。だから、球場内に入った以上は、最低でも1杯は買う。球場でお金を使うという義理は果たす。なんなら2杯飲んだっていい。

だけど、ぼくらがビールだけで満足できるわけがない。

そこで、ワンカップ焼酎の出番だ。入場前にスーパーで焼酎の220mlボトルを買っておき、これをこっそり持ち込んじゃう(結局やってる)。そして、ここに甲子園球場名物「かちわり氷」が登場するのである。

かちわり氷とはビニール袋に砕いた氷を入れたもので、首筋にあてて熱くなった身体を冷やすもよし、袋の角をちょっと破って溶けだした水をちゅうちゅう吸うもよし、様々な使い道がある万能アイテムだ。

ここにね、先ほどの焼酎をチョロっと入れるわけ。すると、いい感じで焼酎の水割りができるんだな。しかも、氷がごろんごろん入っているから、驚くほど冷たくなる。そして、うまい。コツは一度に焼酎を入れ過ぎないこと。これをよく揉みながら、ストローで吸う。だんだん薄まってきたなと思ったら、また焼酎を継ぎ足す。

これが実にたのしい。

ただし、ストローでアルコールを摂取すると、気のせいか酔いが早く回る。飲みやすさ故か、夏の暑さ故か。

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