009灼熱のおでんうどん

09 灼熱のおでんうどん

店で食うおでんもいいけれど、いったん皿に取り分けられた時点で冷めてしまうのは避けられない。前回話した釣り堀おでんでさえ、熱さという点では不満が残る。

熱いものを食べるのが苦手な人を、世間では「猫舌」と呼ぶ。その反対に、熱いものが好きな人のことを「犬舌」と呼ぶ人がいるが、犬だって熱いものは苦手なのである。だから、昔から熱いものが大好物なぼくは、この嗜好を表すのに何かいい言葉がないものかと考えていて、あるとき「マグマ舌」を思いついた。

マグマ──すなわち溶岩なんか飲んだら火傷じゃ済まないが、しかし、肉体が許してくれるならマグマでさえ飲みたい。そういう熱いもの好きの願望を表した言葉なのだ。

熱いものが好きだと言うと、あまり火傷をしない体質なんだろうと、思われてしまうことが多い。そんなわきゃあない。ぼくだって人間の端くれだ。70〜80度を超えるものをクチの中に入れれば、タンパク質が変性して火傷をするに決まっている。それをうまく避けるために、熱いものをクチに入れる直前にフーフーしたり、唾液を活用したり、適度に水を飲むなどして、火傷するのを回避する。そのせめぎ合いがいいのだ。

さて、話はおでんだ。

酒の肴の中でも、おでんはかなり熱さをともなうメニューだが、店で食べるときは皿に取り分けられるため、どうしても冷めてしまう。常々これを不満に感じている自分は、家でおでんをやるときには一人鍋スタイルにしている。

一人用の小さなカセットコンロに、やはり一人用の小さい土鍋をのせて、そこにおでんを入れる。おでんは大鍋で自作することが多いが、面倒なときはパック入りのものをスーパーで買ってくる。これを食卓でぐつぐつ煮立てながら、土鍋からダイレクトに食う。取り皿とかそういう軟弱なものは使わない。

前回書いたように、だしの味とか、具材へのこだわりというのはない人間なので、市販品のおでんで十分である。ただ、ひとつだけ特殊なものを入れる。それはうどんだ。

ボール、はんぺん、ごぼう巻き、つみれ、厚揚げ……おでんの種というのは全般的に練り物が中心だ。ならば、同じ練り物のうどんが合わないわけがない。形が違うだけで成分的にはちくわぶとほぼ一緒だ。

小さい土鍋なので、おでんを煮ているところにうどん玉は入らない。だから最初は普通におでんをつまんでビールか酎ハイを飲む。ヒマラヤの天辺のように冷え切ったビールと、地獄の釜のように煮えたぎったおでん。この落差がいい。飲み物の冷たさが、余計におでんを熱く感じさせてくれる。

食べ進むうちにおでんが減ってきたら、ようやくここで「うどん玉」を投入する。丸ごとでは入らない場合には、包丁で半分にスパッと切ってしまってもいい。むしろ、そのほうがつまみとして食べるのには都合がいいだろう。

麺類をつまみに酒を飲む楽しみは、モ氏(※このコラム初登場、酒友2号)と馬鍋を食っているときに教わった。モ氏の行きつけの馬鍋屋は、煮込んでものびないそばが有名で、これを鍋の中で煮込み、箸で1本ずつつまみながら飲むのが最高なのだ。

それを真似して、自宅でおでんにそばを入れてみたりもしたが、あまりうまくいかなかった。のびないそば玉が手に入ればまた印象が違うのかもしれないが、ちくわぶの親戚であるうどんのほうが、おでんには合うと思う。

おでんうどん。語呂もいいので気に入ってる酒のつまみだ。

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