01 ひとり酒場でのむ酒は
日が暮れて、気の合う仲間と居酒屋へ行く。
6人だけど入れます? お座敷上がっちゃおうか。わいわいわい。何飲む? とりあえず生っしょ。生ビールを人数分ください! あ、あたしウーロン茶。じゃ生は5にして。
お疲れーっす。カンパーイ。つまみどうする? 鳥唐ふたつ。ポテトフライもふたつ。タコわさは……ひとつでいいか。厚焼き玉子は3皿必要かと。あと大根サラダ。いやー仕事終わりの飲み会、最高だねー。イエー! おれら6人ってベストメンバーっしょ。いやホント!
……ねえ、あそこのカウンターのオヤジ、見てみ? 背中に哀愁ー。こういう場所によくひとりで来れるよな。一緒に飲む相手がいないんじゃないの。なんつうか、超さびしそー。
おじさん、くるっと振り向いてひと言。
「さびしくなんかないっ!」
たしかに、学校や職場で気の合う仲間と連れ立って飲みに行くのは楽しいだろう。しかし、君たちはわかっていない。カウンターに身をあずけ、ひとり飲んでるおじさんは、一緒に飲んでくれる相手がいないんじゃない。ひとりで飲みたいから、ひとりでここに来ている。だからさびしいはずがない。
仲間と一緒に飲む楽しさは、おじさんにだってわかる。わたしにも飲み仲間ぐらいいるからね。でも、それとこれとは違うんだ。ひとり飲みには、ひとり飲みのよさがあるんだよ。
ひとりならば、お酒でもつまみでも、好きなものを好きなペースで飲み食いできる。これは重要なことだ。誰かから酒のおかわりを強要されることもない。自分の体調やフトコロ具合いと相談しながら酒を飲むのは、精神衛生上とてもいい。ひとりだと長居することもないから、結果的に安あがりという利点もある。
仕事で行き詰まっているときにも、ひとり飲みが効果を発揮することがある。
ひとり飲みは話し相手がいないので、どうしたって自分自身と向き合うことになる。話し相手はつまみのコロッケだ。しかしコロッケは返事をしてくれない。だから会話する代わりにひとりでいろんなことを考える。
ぼくの場合、たいていはくだらないダジャレを考えているが、たまには仕事のことも考える。そうすると、フッといいアイデアが出てきたりするんだ。半年間ずっと悩んでいた本のタイトルを思いついたこともあるし、作っているゲームのオープニングの構成を閃いたこともある。仲間と飲んでいたのではこうはいかない。
誰も付き合ってくれないから、仕方なくひとりで飲みに行くのではなく、積極的にひとりで酒場へ向かう。酔っぱらいの世界には、そういう選択肢もあるのだ。
テレビで、有名タレントが町の酒場を探訪する番組をやっていたりする。そうしたときに訪ねるのは、もちろん大型チェーン店などではなく、個人経営の小さい店だ。そういった店は地元の常連さんが客の中心なので、突然やって来たタレントは明らかな異物だ。
常連たちは遠巻きに撮影の様子をうかがうが、タレントは気さくに話しかける。やがて、酒の酔いも手伝ってか常連たちは打ち解け、カメラの前に人の輪ができる。「○○酒場、さいこー!」なんて赤ら顔でカメラに向かって叫ぶお調子者まで出てくる有り様だ。
酒が人と人の心をつなぐ。酒場っていいもんですねえ。
なーんて言うと思ったら大間違いだ! 酒場に来てる客が、みんな仲良く盛り上がりたいと思ってるわけじゃないんだよ!
ああいった番組の影響なのか、酒場にひとりでいるとやたら話しかけてくる客がいる。淋しそうに見えるのかな? ひとり飲みができないアナタは淋しいのかもしんないけど、こっちはひとりを楽しんでるんだから邪魔しないでよ! って思う。
この感覚、わかってもらえるだろうか。「酒はみんなと盛り上がるためのものでしょ?」と信じている人には、なかなか理解してもらえないかもしれないね。
気が向いたらサポートをお願いします。あなたのサポートで酎ハイがうまい。