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13 失われたセクハラ酒場の面影

酒場というのは男の世界だ! なーんてことをいまの時代に言うつもりはないが、かつては、そんなときもありました。酒場が女性を拒絶しているわけではなく、女性のほうが来なかったのだ。大衆酒場というところになんか。

夕暮れどき、赤提灯を横目に見て縄のれんをくぐる。すると店内には早めに仕事を終えたのであろう煤けた中年男が二人、三人。グラス片手に黄金色の液体をちびりちびりやっている。

手にしたスポーツ新聞に目を落とす者。天井近くにあるテレビで相撲を見る者。つまみのコロッケに語りかけている者。壁には日焼けで色褪せたポスターが貼ってあり、そこには生ビールを手にしたビキニのおねえさんがニッコリと微笑みかけている……。

ストップ、ストップ!

犯人はこれだ。生ビールのビキニポスター! 昔の酒場には、そういうものがたくさん貼ってあった。お洒落とは対局にあるコヤツが、酒場から女性を遠ざけている原因だったのだ。

これらのキャンペーンポスターは、ビール会社の営業マンか、生ビールタンクを店に配達する酒屋の人間が置いていくのだろう。「今年は野島千佳ですよ〜。おっぱい大きいでしょ、ぜひ店に貼ってください!」とかなんとか言いながら。

もちろん店主だって嫌いじゃないし、客だってビキニは大歓迎だ。そうして、男の隠れ家といった酒場のイメージが形作られていく──。

かつて、立川に事務所を構えていた頃、すぐ近所に「セクハラ酒場」があった。もちろんそんな店名じゃない。ぼくが勝手にそう呼んでいた。

セクハラ酒場といっても、店主が女性客にちょっかいを出したりするわけではない。壁に貼られた生ビールのビキニポスターの数が尋常じゃなく多かったのだ。さして広くない店内の、壁という壁、さらには天井までもが、ビキニのおねえさんで埋め尽くされていた。その様子は、まるで男子校の体育会系の部室のようで、実にイカ臭い。いや、別におかしな意味ではなくて、イカの丸焼きのせいなんだが。

これ、酒場だから許されるけど、普通の会社の壁がこんな状態になっていたら、絶対セクハラで女子社員たちに突き上げを食らうよな……と思ったのがキッカケで、そこを「セクハラ酒場」と呼ぶことにした。

今回、このエッセイを書くために、およそ15年ぶりで立川のセクハラ酒場を訪ねてみた。すると、壁を埋め尽くしていたあのポスター群は、きれいサッパリなくなっていた。そりゃそうだよな。いまのご時世、あれはやっぱりまずいのだろう。

なんでも、キリンビールでは2003年にキャンペーンガール制度を廃止。続いてサントリーでも2004年の安田美沙子を最後にキャンペーンガールはやめているという。酒場におっぱいの花が咲く時代は終わったのだ。

やけにサッパリとしてしまったセクハラ酒場の店内で、失われた過去を懐かしみながら生ビールのジョッキをぐいと空ける。ああ、うまい……。そして目をパッと開けると、天井には思い出の光景が残っていた(※このページのヘッダ画像参照)。

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とみさわ昭仁
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