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39 ホッピーのナカ問題

あまり関西では見かけないのだが、関東の酒場には「ホッピー」というものがある。

あらためてホッピーを説明すると、ホッピービバレッジ株式会社が発売するビール味の清涼飲料水だ。ただし、これだけ飲んでもたいしてうまいもんではない。なにしろノンアルコールだからね。飲み方としては、焼酎をこいつで割って飲む。するとビールみたいな味になる。ビールより安上がりで、それなりにおいしく、プリン体も含んでいないから痛風になる確率もちょっとだけ下がる。

通常、酒場においてホッピーを飲む場合、まず最初はセットで頼むものだ。すると、出てくるのは少量の焼酎と氷を入れたジョッキ。それにホッピーの360ml瓶。これをジョッキに注いで飲む。注ぐ割合はお好みでかまわないのだが、だいた焼酎1に対してホッピー5くらいが丁度いい。

店によっては、焼酎をどっぷり入れて大サービスしてくれるところもあるが、あれはいただけない。こちとら大酒飲みではあるけれど、だからといって酒が濃けりゃいいわけじゃない。ものには程度ってもんがあるのだ。ぼくはホッピーひと瓶で、焼酎を2〜3回おかわりできるくらいの濃度が、いちばんおいしく感じるね。

とあるもつ焼きのチェーン店「B」では、この焼酎がおかわり制ではなく、ボトルから勝手に注いでよいシステムになっている。いちおう1杯ずつに適した量のところにマジックで線が引いてあるのだが、無理してこのラインを守る必要はない。自分の好みの濃さで何杯か飲みながら、最終的にどこかの線ピッタリになるよう調整すれば、そこまでの金額で生産される。普通の量じゃ薄く感じるが、かといって濃すぎるのも好きじゃないぼくは、このように自分好みの濃さを調節できるシステムが嬉しくて、「B」に行くことが多い。

ところで、ホッピーに使用する焼酎は、一般的に甲類が最適とされている。芋や麦や黒糖などを用いた乙類焼酎は風味がいいので水割りやロックで飲むとおいしいが、ホッピーの場合はその風味が邪魔になる。クリアな味わいの甲類焼酎の方がホッピーには相性がいいのだ。なかでも、宮崎本店の亀甲宮焼酎(通称キンミヤ)が人気だ。

……と言われているのだが、ぼくはちょっと違っていて、ホッピーを飲むにはキンミヤだと少しばかり上品な気がする。もっと、こう、激安な……実名は書かないけれど、あの、拝一刀が連れていそうな名前の、でっかいペットボトルのやつがいいと思う。ああいうのがいちばんホッピーに合うんじゃないだろうか。

さて、ホッピーは「ソト」と「ナカ」というふたつの言葉で呼び表される。ソトというのは瓶のホッピーのこと。ナカというのは焼酎のことだ。つまり、焼酎をおかわりするときには、店員さんに「ナカください」と言えばよい。

この言い方は現在かなり浸透してきたようで、ちゃんとメニューにもそう記載されている店は増えてきた。そうでない店でも、「ナカ」と言えばたいてい通じる。

ところが、先日、中野の某酒場で、驚きの対応をされてしまった。

最初の1杯目のジョッキが空になったので、若い男性店員を呼んで「ナカちょうだい」と注文した。すると店員くんは何も言わずポカンとしている。ぼくの声がうまく聴き取れなかったのかと思い、「ナカのおかわりね」と今度ははっきり言ってみた。しかし、それでもポカーンとしているのだ。

ああ、この子はまだ若いから「ナカ」を知らないのか。それも仕方ない。ならば「焼酎のおかわりがほしいんだよ」と優しく言い換えてみた。すると、店員くんは何と言ったか。

「飲み方は……水割りですか?」

ええっ? おれがホッピー飲んでるの、見てわかんない? これは怒るというより、思わず笑ってしまったな。酒場というのは、何も酒飲みばかりが働いてるとは限らない。店員さんの中には下戸だっているだろう。そういう当たり前なことを教えられた夜だった。

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