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【AI関連】AI事業者ガイドライン(第1.0版)のポイント解説① AI利用者向け

2024年5月31日
個人情報・プライバシー分野チーム
弁護士 森田岳人


AI事業者ガイドライン(第1.0版)の取りまとめ

経産省と総務省は、生成AIの普及や急激な技術の変化等に対応するために2023年から有識者等と議論を重ね、2024年4月19日に「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を取りまとめて公表しました

引用:経済産業省ホームページ

AI事業者ガイドラインは、過去に策定された複数のガイドラインを統合し、最新の状況にアップデートされたものであって、今後、AIを開発したり、利活用していく企業にとっては最も参考にすべきガイドラインになります。

本シリーズの趣旨

AI事業者ガイドラインは比較的わかりやすくまとめられているのですが、本編36頁、別添157頁、その他チェックリスト、ワークシートなどの参考資料やツールもあり、全体としてはかなりのボリュームになります。

引用:経済産業省ホームページ


したがって、これらを一から最後まで全て読んでいくことはなかなか難しいかと思います。
そこで、AI事業者ガイドラインやその付属資料について、実務上ポイントとなる点をわかりやすく解説してみようというのが、本シリーズの趣旨となります。
まず第1回は、これからAIを利用していきたいと考えている企業(AI利用者)の皆様が、どこからどのように始めたらいいのかを、AI事業者ガイドラインに沿ってお伝えします。

AI開発者・AI提供者・A利用者の区別

初めに用語だけ整理しておきます。
AI事業者ガイドラインではAIに関わる事業者を、AI開発者、AI提供者、AI利用者の3つに分けて、それぞれが参考とすべき指針を示しています。
これらのイメージや説明は以下のとおりです。

・AI 開発者(AI Developer)
AI システムを開発する事業者(AIを研究開発する事業者を含む) AI モデル・アルゴリズムの開発、データ収集(購入を含む)、前処理、AIモデル学習及び検証を通してAI モデル、AIモデルのシステム基盤、入出力機能等を含むAIシステムを構築する役割を担う。

AI 提供者(AI Provider)
AI システムをアプリケーション、製品、既存のシステム、ビジネスプロセス等に組み込んだサービスとしてAI利用者(AI Business User)、場合によっては業務外利用者に提供する事業者 AI システム検証、AIシステムの他システムとの連携の実装、AIシステム・サービスの提供、正常稼働のためのAIシステムにおけるAI利用者(AI Business User)側の運用サポート又はAIサービスの運用自体を担う。AIサービスの提供に伴い、様々なステークホルダーとのコミュニケーションが求められることもある。

AI 利用者(AI Business User)
事業活動において、AIシステム又はAIサービスを利用する事業者 AI 提供者が意図している適正な利用を行い、環境変化等の情報をAI提供者と共有し正常稼働を継続すること又は必要に応じて提供されたAIシステムを運用する役割を担う。また、AIの活用において業務外利用者に何らかの影響が考えられる場合は、当該者に対するAIによる意図しない不利益の回避、AIによる便益最大化の実現に努める役割を担う。

引用:AI事業者ガイドライン 本編5頁 
引用:AI事業者ガイドライン 本編5頁

AIを利用するときの進め方(全体像)

これからAIを利用していきたいと考えている企業(AI利用者)は、以下の順番で進めていかれるのが良いかと思います。
なお、AI事業者ガイドラインに記載されていることを全て行うことがベストプラクティスですが、これからAIを利用しようとする企業(特に中小企業)の皆様にはやや高いハードルとなってしまいますので、以下では最低限のフローにとどめています。

1.プロジェクトに関わる部署や責任者を決める。経営層もコミットする。

2.関係部署の責任者が中心となって、以下を読み、AI利用者として留意すべき事項を学ぶ。
AI事業者ガイドライン本編(特に「第2部 AIにより目指すべき社会及び各主体が取り組む事項」と「第5部 AI利用者に関する事項」)
AI事業者ガイドライン別添(特に「別添5.AI利用者向け」)

3.関係部署の責任者が中心となって、以下のワークシートを検討して書き込む。
AI事業者ガイドライン「別添7C.具体的なアプローチ検討のためのワークシート(共通の指針)」
AI事業者ガイドライン「別添7C.具体的なアプローチ検討のためのワークシート(「AI利用者」関連※記載例あり)」

4.上記3のワークシートで明確になったタスクを、関係部署の責任者が中心となって実行し、AIの利用の準備を整える。

5.AIの利用を開始する。

6.AIを利用しながら、モニタリングを行い、評価及び継続的改善を行う。

今回はここまでです。
次回は上記のフローをもう少し細かく見ていきたいと思います。


弁護士 森田岳人(松田綜合法律事務所 パートナー)
2004年10月東京弁護士会登録。松田総合法律事務所入所。2016年4月より同事務所パートナー。2021年1月より名古屋大学未来社会創造機構 客員准教授。東京弁護士会AI研究部所属。
最近は、個人情報・プライバシー関連法務、AI・データ関連法務、自動運転・モビリティサービス関連法務に、IT関連法務に注力。
「個人情報保護委員会の動向」(共同執筆/ジュリスト 2023年10月号(No.1589) | 有斐閣)、「与信AIに法規制はなされるか ―差別・公平性の観点から―」(共同執筆/「金融法務事情」 2022年6月10日号)、「AIプロファイリングの法律問題──AI時代の個人情報・プライバシー」(共著/商事法務)ほか。


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