ビターテイスト
幼い頃、母が自慢げに見せる写真があった。
ピカピカのイルミネーションの前に痩せっぽっちのアベックがいる。
その色褪せた写真には、
お父さんとお母さんになる前の両親が、肩を寄せ合って写っていた。
よく知っている人の、知らない顔を見せられて、
胸がチクりと痛くなった。
失恋やジェラシーともちょっと違う。
なにか大きな時間の流れの中に、ぽつんと取り残されたような寂しさがあった。
自分の「知っている」が喪失する瞬間だったかもしれない。
これは、わたしが写真を見ることで得た最初の感覚。
今年の正月、夫の実家でわたしは楽しげに卒業アルバムを開いた。
見知らぬ校庭の真ん中で学ラン姿の幼い彼と目が合った。
すこしドキッとして、やはり胸がチクりと痛んだ。
人と人と、どんなに親密であっても埋められない時間はある。
写真を見るとき、よくそんなことを考える。
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