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移ろいを遺す│モネ展

上野の森美術館で開催されている「モネ 連作の情景」展に行ったのでその感想とか。


遡ること10ヶ月くらい前、シーレ展(東京都美術館)に行った。そのとき今回のモネ展のパンフレットを手にした覚えがある。そこには「100%モネ」なるフレーズが書かれていたのが印象的で、展示作品全てモネなんて注目度の高い企画展になりそうだと思っていた。

企画展の告知は結構早い。大抵、展示会場の出口に今後予定される企画展のパンフレットがずらっと並べられていて、それを手に取るのも企画展の楽しみだ。

実際かなり人気なようで、美術館の前には列が伸びていたし、平日とは思えない人の多さだった。最近では絵画の代名詞のようになりつつある?モネの注目度の高さが伺える。

100%モネと謳われているように企画展の絵画全てがモネな訳だが、作品が時系列ごとに5章立てで構成されていて、初期から晩年に至るまでの作風や環境の変化を知ることができる。
1章では「印象派」に至るまでの作品が展示されている。1章の感想は「率直に絵が上手い」だ。というのも、初期の作品は写実的な作風なのだ。特に『ルーヴル河岸』ではパースの取れた風景に建物や人物が緻密に描かれていて、モネの潜在的な画力を伺える。初期の作品はバルビゾン派をも思わせ、ブーダンに才能を見出されたのも納得がいく。
その後、サロン(官展)に初入選するものの、それ以降は保守的な審査によって落選が続き、自らが第一回印象派展をパリで開催したことが“印象派”の始まりだ。
質実な作風から印象を切り取る作風に変わっていったモネ。画家あるあるの「本当は絵が上手いのに段々作風が崩れてゆく」を少なからずモネでも体感できたのは本企画展の魅力だろう。

2章以降は企画展のテーマ通り「連作」の作品が連なる。
1章の作風とは異なり、正に風景の印象を素早く切り取ったような画面で、我々が想像するモネのタッチだ。しかし太い筆跡のなかに、鋭い観察力が伺える。空や海面のグラデーションは、同じ風景を切り取った作風でも少しずつ異なるのが分かる。モネは睡蓮に至る以前から、天候などの自然現象に目を注いでいた。

『チャリング・クロス橋 テムズ川』

天候に関して、4章の『雨のベリール』も印象的だった。まず、風景画において雨というチョイス。そして雨での戸外制作という気力。正方形のキャンバスというのも面白い。灰色の画面からは静かだが決して弱くはない雨が降っていることが伝わってくる。

『雨のベリール』
全作品の中でいちばん好きかも。ポストカードも買った。

モネと聞いて一般的に想像される「睡蓮」は、晩年に自宅の庭で取り組んだ連作であり、その作品数は200点を超えるらしい。5章ではその一部が展示されていた。やはり水面の描写力は目を見張るものがある。深緑だったり黄色だったりする池は、さまざまな時間、天候で制作を続けたことが伺える。ひたすらに美しい。自分もこんな配色で絵が描けたらなあと憂う。
あと、5章の解説文にクレマンソーと関わりがあったことが書かれていて驚いた。世界史で出てくるあのクレマンソー。

睡蓮


企画展の「連作」というテーマから、モネは自然をこよなく愛し、その変化を描き続けていたことを知れた。睡蓮のイメージが先行しがちだが、そもそも自然そのものに対して感心があって、変化する情景を残したいという情熱が伝わってきた。
油絵でも写真でも媒体はどうであれ、変化するものを残すということに価値が生まれるのは、今も昔も変わらないのだろう。モネが連作によって記録した数々の情景を体感できる良質な企画展だった。


余談になるが、西洋美術館の常設展にもモネの絵画が展示されてるのにガラガラだったので、行く機会があったらぜひ西洋の常設展にも行ってね。素晴らしいので。

おわり



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