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地球儀について

 新所沢でThe Boy and the Heronの三回目の鑑賞。やはり、主題歌の「地球儀」に込められた米津玄師さんの丹誠が心に響いた。この曲の作詞が、たぶん難解である本作の芯を的確に象徴している。そこに打ち震える感動を覚える。
 そこで帰途、電車に乗りながら、この曲はどんな経緯で制作されたものであろうかと、スマートフォーンで検索してみる。すると、「音楽ナタリー」でのインタビュー記事を見つけた。
 完成まで四年かかったこと。米津さん自身が少年時代から宮崎映画に救われながら生きてきたこと。「パプリカ」に宮崎監督が心動かされたのが依頼のきっかけだったこと。作詞がもっとも難航した点であったこと、などが語られている。

自分が曲をつくるスタンスとしては「僕はこうやって生きてきました」で「僕はこういうふうに生きています」だという。そういう感覚で宮崎駿というものを捉え直して音楽にすることでしか作れなかったですね。

音楽ナタリー2023年8月4日

 たぶん難解である本作を一つの主題で縛るのは間違いであるものの、一つ言えるのは、大叔父から真人に「君にこの仕事を継いでほしい」というところに映画の強調点があることだ。それは、いわば〈熱意の継承〉である。積み木重ねという仕事自体は、真人は受け継がないし、大叔父の作った世界から出て、外の「火の海」に真人は飛び込んでいく。大叔父もそれをわかっていて、それを認め、たぶん嬉しくさえ思っているかもしれない。だから、「時の回廊へ急げ」というセリフに繋がる。ここには、表層的な特定の仕事のあり様を超えた、世界に向かう熱意の継承がある。(この点はフランス版のトレーラーが強調している気がする。)
 そして、われわれ観客は、映画世界で描かれる熱意の継承に思い馳せたのちに、エンドロールで現実世界でのその実例をまざまざと提示されるのだ。宮崎監督の思いは、音楽家米津玄師がしっかりと受け取って一つの音楽作品に仕上げている。これは感動的であるし、驚くべき邂逅だと思う。
 新所沢の映画館はもうすぐなくなるそうである。ふかふかのシートでなかなかいい感じなのだが、もう何回か足を運べるなら、いろいろ観たい。

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