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<勝手に応援!>『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』

11月17日公開の『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』。(ちょっとネタバレあり)

監督のアナ・リリ・アミリプールはイラン系のアメリカ人女性監督。やはりまだ、純粋にイラン出身の女性監督が娯楽映画を撮るのは難しい。アミリプールの場合はイギリスで生まれ、アメリカで成長してサンフランシスコの大学で映画を学んでいる。しかし自分の出自を確認すべく、自主的にイランに戻り滞在していた時期もあった。
その経験があったからこそ、チャドルをまとったイラニアン・ヴァンパイア映画『ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~』が生まれたのだ。イライジャ・ウッドが製作を担当し、映画全体にはレオス・カラックスの『ボーイ・ミーツ・ガール』(84年)の影響が強く見てとれる。モノクロでチャドルを脱げば普段着で、イランの映画といっても、コスモポリタンな感覚が滲んでいる。
 

『ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~』


その後、『マッドタウン』(16年)は少々期待外れだったが、新作の『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』はアミリプールの、ミステリアスでチャーミングな感覚に溢れた、ポップな作品に仕上がっている。映画を作る女性は特に、ホラーへの耐性が強い人が多いだろう。大量の映画を観て勉強をする中で、ホラーの巨匠たちの作品は避けて通れないし、アミリプールはそういった毛色の映画と相性の良い監督だ。『モナ・リザ~』はまったくホラーではないが、モナ・リザと呼ばれることになる、韓国人俳優のチョン・ジョンソは最初、精神病棟で拘束服を着せられている。彼女は超能力で人を操ることができるため、12年ものあいだ、病棟に拘禁されていたのだ。本名も何もわからない、ただ扱いに困る娘として。
 
外に出た彼女はシングルマザーでダンサーのボニー(ケイト・ハドソン)に声をかけられ、とりあえず彼女の家に拾われる。モナはほとんど喋らない。まったく笑わない。それでもなんとなく気になる存在なため目で追ってしまい、一目惚れする気のいいDJもいる。手を出してこない紳士な不良は、女性監督による造形にはありがちだ。これは一種の理想像なのだと思う。
ボニーのような派手でグラマラスな女性が庇護し、アジア系女性が守られる組み合わせは、思わず『ハスラーズ』(19年)を連想する。だが『モナ・リザ~』には共闘はなく、ボニーの欲にモナ・リザが利用され、甘くはない関係性が生まれる。だがボニーの息子のチャーリーはモナに魅了される。恋とも違い、人として熱烈に惹かれて、母か姉か崇拝の対象のように彼女を慕う。その思いがまさに騎士道で、モナのために自己犠牲を払う姿に泣けてしまう。今年は『イノセンツ』といい、子どもが誰にも知られず犠牲を払う意志に胸を痛めた年だった。
 
ホラーの耐性に話を戻すと、ボニーが男たちに襲われ大怪我を負うシーンがあり、その全身の包帯や顔面の腫れがとても痛ましい。そういった息をのむほどリアルな作りこみをし、痛々しい姿を見せるのが女性監督でも分かれるところだろう。だがアミリプールの中では、男が複数で一人の女に全力で暴行を加える恐怖を表現するためには、この特殊メイクは避け難いものなのだ。
 
撮影監督がアリ・アスターの『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』を担当した、パヴェウ・ポゴジェルスキというのも興味深い。アリ・アスターの時とは違い、どこかおとぎ話のような、真っ赤な月夜にモナが初めて飛行機に乗ってフライトをする、ワクワク感が画面から伝わってくる愉楽性を感じ取ってほしい。
 
いま、映画業界はアリ・アスターかA24でキャッチコピーが作られがちで、中にはいまいちなものも混じっているが、この後はA24が買い付けた最高のホラー『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』が、日本でも12月22日に公開される。もちろんアリ・アスターも絶賛の出来だ。
そして、『リバー・オブ・グラス』(94年)で自由で破壊的な女性を描いた、女性監督としていまもっとも注目すべきケリー・ライカートの『ファースト・カウ』(20年)も、A24配給で12月22日公開。
あと、ケリー・ライカートは『ショーイング・アップ』(22年)もなんと、同日公開。製作年は『ファースト・カウ』の方が先だが、こちらはU-NEXTとA24の共同特集の1本として上映。ケリー・ライカートの分身のように、頻繁に登場するミシェル・ウィリアムズが主演の最新作だ。


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