イヤイヤ期を恐れる私に「すばらしい」と言ってくれた人のこと
子どもって気に食わないことがあると、本当に床に寝転んで泣くんだ…と思った。娘、2歳。いわゆる「イヤイヤ期」の真っ只中である。
朝起きたらまず朝食を食べる。ずっとそうしてきたはずなのに、その日は朝一番にパズルがやりたいと泣き叫んだ。そうなってから「わかった、パズルしていいから」と言っても後の祭りだ。もうパズルもしたくないし、朝ごはんも食べたくない。
これ食べる?No! じゃあこれは?No! 食べたら遊ぼう?No!!!!
床に寝転び泣いて、スプーンを投げ、ついには温厚な夫を怒らせた。ギャン泣きの娘と、怒ったのは自分なのに泣きそうな顔をしている夫。とんだ1日の始まりである。
ずっと恐れてきたイヤイヤ期。そんな気はしていた。何を言ってもNo no no! そのとおりにいかなければ癇癪。娘自身にもよくわからない、本当にどうしようもない苛立ち。そんなものが端々に見えた。
「ついに、来たか…」
アメリカにも”terrible two(魔の2歳児)”という言葉がある。夫を見ると、同じように「いよいよか…」という顔をしていた。
そんなときだ、ニュージーランドから突然の連絡が入ったのは。
「最近、子育てをする中でこどもの言動に戸惑ったり、つい怒ってしまうようなことがあればお話聞かせてもらえませんか?」
この質問だけだとよくわからないと思うので、彼女について紹介したい。西敦子ちゃん、通称あっちゃんは私の高校の後輩で、大学では保育を学び、卒業後はベビーシッターなど子どもに関わる仕事をしていた。
話しているだけで伝わってくる「子どもが大好き」というオーラ。私の娘に向けてくれるやさしい眼差し。そんなところに甘えて、たびたび子育ての相談をしていた。
「食事中、何度言ってもスプーンを落としたりしますよね。今は実験してるんです、落としたらどうなるんだろうって。だから一度、先輩の時間と心の余裕があるときにいくらでもスプーンを落とさせてあげてください」
たしかに、娘は気が済んだようにスプーン落としをやめた。
「手をつなぎたがらないんですね。大丈夫ですよ。今はそれを尊重してあげてください。もちろん、危ないときはつなぐけど、安全な道では無理につなぐ必要ないです」
そのうち、娘のほうから手をつないでくるようになった。
彼女のアドバイスはいつも、「大丈夫です」から始まって、私の気持ちを落ち着かせてくれる。だから、そんなあっちゃんがニュージーランドで家庭保育を学びたい。いつかはいろんな家庭の保育の相談に乗れるアドバイザーになりたいのだ、と言ったとき、これ以上ないほど頷いて、大きな声で「すっごくいいね!」と言っていた。
さて、時は戻って、今朝の話。娘は泣き疲れているし、夫は落ち込んでいる。そんな中でのあっちゃんからの連絡に、飛びつくように電話した。
ことの顛末を話して、「もうすぐ2歳だし、イヤイヤ期だよね…」と言ったら、あっちゃんはいつもの明るい声で言ったのだ。
「私はイヤイヤ期って呼ばないんです。自分の意志が芽生えている素晴らしい時期ですから」
あっちゃんが学んでいるのは「モンテッソーリ教育」というもので、子どもの成長に合わせた教育をしていくものだそう。そして、そのモンテッソーリ教育において、“イヤイヤ期”という呼び名は存在しない。
「今、娘ちゃんは、とにかく『繰り返しやりたい』時期です。だから、パズルも何度も何度もやりたい。朝起きたらすぐにやりたい。もちろんご家庭や状況によりますが、私がアドバイスするとしたら、『できる環境なら、満足いくまでやらせてあげたらいい』ということですかね。なぜかというと、満足すれば必ず終わりが来るからです」
あっちゃんの話は、とても納得がいくものだった。
その『終わりがくる』というのが重要らしい。始まりと終わりを自分で決めること。それが将来、「自分で見通しを立てる」という、とても大切なスキルになる。だから、今は時間や環境が許す限り、自分が始めたいときに始めて、やめたいときにやめる。それでいいんじゃないか。
でも、この子ももう保育園だし…。社会に出て、団体行動を取るときに、そんな自分勝手には動けない。今から「そんなわがままは通用しないよ」と訓練するべきじゃないか?
「すごくいい質問ですね、それは」と、あっちゃんが褒めてくれる。
「もちろん社会性は大事です。でも、今じゃなくていいと私は思います。社会に出ればおのずと身につきます」
あっちゃんによると、モンテッソーリが目指すのは「子どもの自立」。社会性よりも先に「自分の意志で動くこと」をさせてあげると、これから生きていく上で大きな財産となる。(もちろん子育ても楽になる。ここ重要!)
他にも、あっちゃんはモンテッソーリの考え方を例に出しながら、さまざまなことを教えてくれた。買い物に行く前にお菓子を買う約束の仕方、子どものためになる叱り方、選択させてあげる工夫。
「あ、あと旦那さんにお伝えください。ときには怒ってしまってもいいんです。ある程度は、親が喜怒哀楽を示すことも大切ですからね」
これから、娘はどんどん変化していくだろう。イヤイヤ期…じゃなくて、自我が芽生えるこの素晴らしい時期も、どんどん激しくなるに違いない。
でも、ずっと抱えていた恐れ・不安はなかった。私には、娘には、こんなにも寄り添ってくれるプロフェッショナルがいる。その安心感というか、開放感というか。
今、子育ての仕方については、いろんな情報が飛び交う。私もときどき「2歳 牛乳 飲み過ぎ」とか検索してしまい、いらん心配をしたりする。だって、子育てってわからないことの連続なんだもの。
これからもきっと、いや、必ず、泣き叫ぶ娘に夫婦で途方に暮れる日が来るだろう。
そんなときは思い出したい。私には「イヤイヤ期すらも、素晴らしいんだよと言ってくれる人」がいるということを。
あっちゃんのブログが、こちら。モンテッソーリ教育やニュージーランドの生活について綴っています。
0~6歳の子育てについての相談や、モンテッソーリを取り入れてみたい方のサポートを受けているそうなので、子育てで不安なことや困っていることがあったらぜひ相談してみてほしい。
きっと、子どもを見る目がすこし変わり、自分の気持ちも晴れていくはず。
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