パラレルワールドの『蜘蛛の糸』
忙しい先生のための作品紹介。第4弾は……
小松左京「蜘蛛の糸」(『役に立つハエ』より、2003、角川春樹事務所 ハルキ文庫)
対応する教材 『蜘蛛の糸』
原作・史実の忠実度 ★☆☆☆☆
読みやすさ ★★★★☆
図・絵の多さ ★☆☆☆☆
レベル ★★★☆☆
作品内容
SF作家として有名な小松左京のショートショート全集に編纂されている1話であり、「パラレルワールドのもう一つの宇宙でのお釈迦さまとカンダタのお話」という位置付けとされています。
こちらのパロディ作品では、
ー自分がカンダタだったら、あんなにか細く切れてしまいそうな糸の上で大声を出して怒鳴るだろうか?静かに粛々と一刻も早く登ろうとするのではないだろうか?
と、作者が不自然に思う点をきっかけに、全く違う展開に向かっていきます。
途中までは芥川のあらすじと全く同じですが、カンダタの少しの行動の違いがテコの原理となり、思いもよらない180度違う結末を迎えます。
おすすめポイント
まるで「スカッとジャパン」に取り上げられそうなオチでは、誰もがニヤッと笑ってしまうことでしょう。芥川版に天邪鬼に噛み付いていく筆者の強気な姿勢で繰り広げられるブラックユーモアを味わっていただきたいところです。私たちの住むこの世界における道徳観は、芥川版と小松版のどちらに近いのでしょうか?
もし自分がカンダタだったらどのような行動をするだろうか。
もし自分が釈迦だったら、どのような心情になるだろうか。
自分だけのパラレルワールドで蜘蛛の糸を描くとしたら、といった創作のテーマにもなりうる、いろいろな可能性を秘めた作品ではないかと思います。
授業で使うとしたら
この作品自体が、芥川龍之介『蜘蛛の糸』に対する作者の違和感を起点に書かれているため、原作を知っていた方が楽しめる作品になっています。もちろん、原作を読んでいなくても楽しめますが、国語の授業で扱うならば芥川の作品を読んだ後に紹介するのが良いのではないかと思います。ページ数も5ページと短い小説なので、授業ですぐに読んでもらうということもできそうです。
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