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阿部幸信『中国史で読み解く故事成語』

忙しい先生のための作品紹介。第52弾は……

阿部幸信『中国史で読み解く故事成語』(山川出版社 2021年)
対応教材      「管鮑之交」「臥薪嘗胆」「完璧」「矛盾」など/故事成語
ページ数      333
原作・史実の忠実度 ★★★★★
読みやすさ     ★★★☆☆
図・絵の多さ    ★☆☆☆☆
レベル       ★★★★☆
生徒へのおすすめ度 ★★☆☆☆
教員へのおすすめ度 ★★★★☆

作品内容

 100の故事成語について、主に歴史的背景を解説した一冊です。それぞれ3ページで、当時の社会状況や人物の来歴、故事の後日談などが説明されています。兵馬俑や武具といった物品、遺跡や山河といった風景の写真が所々に挿入されており、視覚的なイメージも喚起してくれます。

 また、時代ごとに章が構成されており、各章の冒頭には年表と当時の地図が載っています。そのため、時系列や位置関係が混乱してしまっても、その場で確認することができます。さらに、解説の中で別の故事成語が登場した際には参照が付いており、故事成語同士のつながりもわかりやすい一冊です。

おすすめポイント 中国史研究者が語る、歴史を知ってこその故事成語

 本書のエピローグでは、故事成語を軽々しく使うことの危険性と、背景を学ぶ意義が書かれています。そこでは、言葉の意味を知るだけではなく、また原文を読むだけでも不十分。歴史の流れの中で位置づけてこそ、真の意味が理解できる、という筆者の思いが語られています。

 実際に、故事成語の解説はその歴史的背景に重きが置かれています。個人的に印象に残ったのは、               「夜郎自大」の項。夜郎国という小国が前漢の使者に「漢とわが国では、どちらの方が大きいのか?」と問うたという話です。解説の中では、交通が途絶えていた両国の間では、夜郎国が漢の大きさがわかっていなかっただけでなく、漢も夜郎国の大きさ(小ささ)がわかっていなかったのではないか、と指摘されています。

 「夜郎自大」とは「自分を大きく見せようとする」という意味で用いられるのが一般的です。しかし先のエピソードを踏まえると、「相手を知らなければその大きさや強さを評価することができない」という意味も帯びているように感じられます。

 このように、歴史の背景を知ることで、その言葉の持つさまざまな側面が見えてきて、言葉の知識を広げ、深めることができるのではないでしょうか。

活用方法

 故事成語の背景を解説した本なので、先生の勉強にはもってこいの本です。また、各項3ページと手軽な分量でまとめられているため、授業でも補助資料として提示しやすいでしょう。ただし、言葉遣いも大人向けであり、内容も中国史に深く踏み込んだものが多いため、原文を読む前に前提知識として入れる、というよりは、原文を読んだ後の発展として用いるのがよさそうです。

 興味のある生徒には、一冊通読することを勧めるのもよいですが、本書の中で歴史がすべてつながっているわけではないので注意が必要です。あくまで故事成語について知るための本という前提で読む/読ませることをおすすめします。

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