見出し画像

『こころ』から読み解く近代文学史

忙しい先生のための作品紹介。第11弾は…

あんの秀子『マンガでわかる日本文学』(池田書店 2014)
対応する教材    文学史『こころ』『舞姫』『富嶽百景』『檸檬』『高瀬舟』
ページ数      223ページ
原作・史実の忠実度 ★★★★☆
読みやすさ     ★★★★☆
図・絵の多さ    ★★★★☆
レベル       ★★☆☆☆

作品内容

 明治〜昭和の文学作品(一部文学批評を含む)を簡潔に解説した一冊。42もの作品が「恋愛」「死生観」などテーマ別に紹介されています。 各作品について、2ページであらすじのマンガ、後の2ページで解説、作家、登場人物、豆知識のコラムが載っています(一部作品はあらすじのマンガが省略されています)。
 また作品の最後には、「主要な文学思潮表」「知っておきたい近代日本文学の流れ」といった付録もついています。

おすすめポイント「『こころ』から読み解く近代文学史」

 一番の特徴は、テーマ別に文学史を追えるところです。本書ではまず『こころ』が紹介されています。そして『こころ』から恋愛や社会、死生観など、いくつかテーマをピックアップし、各テーマに沿ってさらにさまざまな作品が紹介されています。例えば社会なら『破戒』では部落問題を、『セメント樽の中の手紙』では労働者問題を、『黒い雨』では原爆病問題を、というように、当時の社会問題をまとめて知ることができます。そのため、ただ作品の内容を読み取るだけでなく、その作品が『こころ』とどのような関係にあるのか、文学史や当時の社会状況の中でどのような立ち位置だったかまで知ることができます。もちろん、それぞれの作品単独で読んでも十分楽しめることはいうまでもありません。

 また、教科書教材が多いことも注目です。作者が教員であることもあってか、『舞姫』『山月記』『富嶽百景』など教科書で扱われている作品もたくさん出てきます。あまり文学に詳しくない人にもなじみがあり、わかりやすいのではないでしょうか。

 文学史を理解するアイテムが豊富であることも見逃せません。紹介作品以外の主要作品を時代別に紹介した「読んでおきたい文学作品」、「写実主義」「プロレタリア文学」といった文学の主義を一覧で解説した「主要な文学思潮表」、主要な作品と文壇での出来事、日本や社会の情勢を年表にまとめた「知っておきたい近代日本文学の流れ」などがあり、近代日本文学の流れが追いやすくなっています。

授業で使うとしたら

 『こころ』『高瀬舟』などの作品を扱う際に、あらすじをおさえるためにマンガの部分が使えます。作品のテーマやあらすじを最初に知ることで、生徒になじみの薄い作品でも理解がしやすくなるのではないでしょうか。とこの形での使用が最も手軽なのでレベルは2にしました。しかし、解説部分を用いて批評したり、他の文学作品と比較する視点を取り入れたりと、発展課題としての使用にもたえうる本です。

 また、付録などをそのまま使って近代文学史を説明したり、「反自然主義」「新感覚派」などの文学思潮を説明したりすることもできます。

 総合的に、近代文学全体の、あるいは各作品の入門的な立ち位置として使いやすい一冊といえるでしょう。

【付録】紹介作品一覧(○:マンガあり ・:マンガなし)
第一章 『こころ』を読む
 ○夏目漱石『こころ』
第二章 恋愛
 ○舞姫
 ○浮雲
 ○たけくらべ
 ○刺青
 ・有る女
 ○真珠夫人
 ・三四郎
第三章 お金と仕事
 ○尾崎紅葉『金色夜叉』
 ○徳冨蘆花『不如帰』
 ○田山花袋『蒲団』
 ○夏目漱石『坊っちゃん』
第四章 宗教・倫理
 ○泉鏡花『高野聖』
 ○武者小路実篤『友情』
 ○遠藤周作『沈黙』
 ・三島由紀夫『金閣寺』
第五章 社会
 ○夏目漱石『現代日本の開化』
 ○北村透谷『漫罵』
 ○島崎藤村『破戒』
 ○葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』
 ○井伏鱒二『黒い雨』
 ○佐藤春夫『田園の憂鬱』
 ・内田百閒『阿房列車』
第六章 暮らしと文化
 ○夏目漱石『吾輩は猫である』
 ○国木田独歩『武蔵野』
 ○谷崎潤一郎『陰翳礼讃』
 ○芥川龍之介『蜜柑』
 ○太宰治『富嶽百景』
 ○川端康成『伊豆の踊子』
第七章 ファンタジー、異世界
 ○夏目漱石『夢十夜』
 ○井伏鱒二『山椒魚』
 ○中島敦『山月記』
 ・横光利一『蠅』
第八章 推理と怪奇
 ○芥川龍之介『藪の中』
 ○江戸川乱歩『押絵と旅する男』
 ○梶井基次郎『檸檬』
 ○坂口安吾『桜の森の満開の下』
第九章 死生観
 ○宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
 ○堀辰雄『風立ちぬ』
 ・小林秀雄『無常といふ事』
 ○森鷗外『高瀬舟』
第十章 『人間失格』を読む
 ○太宰治『人間失格』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?