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『百人一首殺人事件』(山村美紗)

忙しい先生のための作品紹介。第32弾は……

山村美紗『百人一首殺人事件』(光文社 1978年、光文社文庫 1984年)
対応する教材    『百人一首』
ページ数      269ページ
原作・史実の忠実度 ★★☆☆☆
読みやすさ     ★★★★☆
図・絵の多さ    ★☆☆☆☆
レベル       ★★★☆☆

作品内容

 ミステリー界の女王・山村美紗の、百人一首・競技かるたを取り巻く推理小説。殺人事件現場には小倉百人一首の札が置かれていた……。

 和歌の意味や競技かるたのルールがわからなければ解けない難事件ですが、事件の関係者はみなかるたの玄人。百人一首にまつわる知識の説明がとても丁寧なので、探偵役であるアメリカのお嬢様キャサリンと一緒に楽しく学びながら読み進めることができます。

おすすめポイント『百人一首』で紐解くミステリー

 作者が和歌に込めた想い、枕詞や掛詞の説明、定家による『小倉百人一首』選定に関わる謎、複数の和歌を組み合わせた言葉遊びなど、多種多様な『百人一首』のルールや雑学が登場します。なかでも、空札を使ったかるた遊びの説明が重要になってきます。いずれも謎解きには欠かせない情報のため、物語にのめり込むうちにすんなりと頭に入っていることでしょう。

物語の心理的な部分を解決する『百人一首』の知識と、山村美紗ならではの論理的なトリックの種明かしが最大の魅力です。

授業で使うとしたら

 本書は『百人一首』とかるたの2つが関係していますが、どちらも授業で直接使うには難しそうです。

 まず『百人一首』では、事件に関連する歌のみならず、多くの歌やそれにまつわる知識が紹介されています。しかし本書はミステリーなので、どこか一部分だけを用いて紹介することがなかなかできません。また、作中にはなかなか専門的な学説も紹介されていますが、あくまで試論の域を出ないものです。

 また、かるたについても、現在のいわゆる「競技かるた」とは、基本的なルールなどは同じでも、細かい競技の進め方や戦略面でも異なるものが多く、本書を読んでかるたの勉強をするのはおすすめしません。

 しかし、本書が参考書や研究書ではないこと、また書かれたのが1978年とやや古いものであることを考えると、これは当然でしょう。

 無理に授業そのものに関連させずとも、ミステリーが好きな生徒に、『百人一首』に興味を持ってもらうきっかけにするなど、無理のない範囲で薦めるのがよいのではないでしょうか。

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