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『ブルーアワーにぶっ飛ばす』

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台風直撃の土曜日にユーロスペースで舞台挨拶つきで観ようとしたけど、中止になったのでTCGカードで割引になるテアトル新宿で箱田優子監督『ブルーアワーにぶっ飛ばす』を。テアトル新宿は入り口にある3メートルぐらいのポスターみたいなのがあって好き。『週刊ポスト』の連載「予告編妄想かわら版」でも取り上げているのだけど、まあ、夏帆好きなんでというのが大きい。


夏帆演じるCMディレクターの砂田が「秘密」の友達であるシム・ウンギョン演じる清浦と共に大嫌いな地元の茨城に数日帰るという話。予告編でもサイトでも清浦を「秘密」の友達、「さようなら、なりたかったもう一人の私。」というコピーがあるので、彼女が何者かっていうのはネタバレ以前にわかるものだろう。まあ、『となりのトトロ』みたいなものとしての清浦。だからこそ、冒頭から砂田の幼少期のシーンも何度か出てくるし、そこにもヒントはあるが、幼い頃の彼女が思い描いていたものだからこそ、清浦演じるシム・ウンギョンのどこかカタコトに聞こえる日本語が最後により深いものに感じられた。この辺りはキャスティングがうまい。茨城弁ほとんどわからなかったですよ、みたいな清浦のセリフもあるが、まあ、それはいいか。その辺りの描写に関しては最後にどういう人物だったのかわかると、今までのシーンってさあと思わなくもないのだが、それ以上に地方出身者が地元や親兄弟に感じるものがかなり切実に伝わってきたのが高ポイントだった。


たまたまだけど、先月実家に帰ったのでその時に感じたものとかなり近いものを砂田から感じた。祖母とのやりとりも近い感じのものがあったし、グサグサ刺さる。東京に出てきて、どんどん東京の人間として暮らしている自分と地元で生まれ育った自分との間に距離ができてくる。それは当然ながら地元にいる家族ともだ。どんなに電話やメールやライン、連絡をしていても理解できないものができてくるし、自分が大人になってくると血縁で一応繋がっている家族でも、理解し合っているというわけでもなく、諦めとも違うなにかで一緒に暮らしているんだなと外に出ることでわかることもある。それが寂しいとかではないが、家族ってものを考えると自分はそういうものを作りたいとあまり思えていないことにも気づく。たぶん、家族って形はどこか後先考えない勢いみたいなものがないと作ろうとか思わない気がする、自分は。そして、その勢いもなくなった中年になった自分にはそういうことからどんどん離れていっているとも思う。


この映画の中で砂田は「私を好きって人、あんまり好きじゃない」と言っている。彼女は結婚しているし、W不倫していたりもするが、たぶん「あんまり」であって、どこかで人を求めているし、寂しさには耐え切れないから誰かといることを望んでいるのだろう。この複雑さはわりと多くの人が感じていることなんじゃないだろうか。自己肯定感の問題でもあるし、家族間でのポジションのこともあって、ポジティブシンキングなままでは生きていけないし、それを自己啓発とかで変えていこうとすると違うめんどくささを背負ってしまう。
大嫌いだった地元の茨城から東京に帰る彼女はたぶん、憑き物が落ちたような感じにはならないだろうけど、前よりも少しは自分を好きになれているのがわかる感じなのはよかった。

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