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鷹村アキラ『えにし独楽』を時代物入門小説としてオススメしたい

正直、時代物が苦手でした

文学部国文学科近世文学専攻、ゼミ担当の教授は江戸の出版文化の専門家でした。にもかかわらず、時代劇や時代物はどうにも難しそうなイメージで、エンタメとして楽しむこともなく、「水戸黄門シリーズ」の何話かを子どもの頃に観たかなあ……? といった程度。本当に時代劇・時代物に馴染みがありませんでした。

さて。今年8月に開催された「NovelJam 2021 Online」という小説ハッカソンに参加したメンバー数人で「他のメンバー作品をリレーレビューしよう」という企画を篠田すみれさんが提案・とりまとめてくださいました。そこで、わたしがレビューすることになったのが、鷹村アキラさんの『えにし独楽』でした。

まったくもって、時代物は避けていた部類だったのですが、面白かった。

時代物初心者にオススメしたい

イベント時のプレゼンによると、奉行所には町奉行と寺社奉行があり、一般的な時代物の傾向として、寺社奉行は悪役になりやすいのだそうです。『えにし独楽』は、江戸の寺社奉行にお勤めすることになった青年・仁之助を主人公に据え、彼が事件を解決するために、仲間とともに奔走する江戸時代バディもの。怪談的な要素もあって、老若男女誰でも楽しむことのできる物語です。

最初に読んだときにも感じたのですが、とにかく読みやすい。気負ったところのない文章で、ルビさえあれば小学生から楽しめるのではないか、と思いました。子ども向けという意味ではなく、鷹村さんが読者の方を向いているから、誰でも楽しむことができると思った次第です。時代物に馴染みのない読み手にも楽しんでもらうため、工夫をされているように感じました。

過度に説明的になるのではなく、自然と町奉行と寺社奉行の関係がわかったり、江戸の街で田舎侍がどのように眼差されるのかが描かれていて、大変興味深い。

そして、物語としても面白いのです。

田舎侍というのは、野暮なものです。しかし仁之助の野暮さは、素朴さや素直さであって、斜に構えた江戸の「意気(いき・粋)」とは全く異なる魅力を持っています。文章を読んで仁之助を追いながら、人情というやつは実に良いものだ、と思うのでした。

『えにし独楽』は「時代物を読んでみたいけど、何かないかな?」という向きにオススメしたい短編小説。ぜひ、ご一読を。

他の方のレビューはこちら

■NovelJam' 2019 藤井太洋賞 おおくままなみ著『キボウの村』レビュー - びよとま
https://biyotoma.work/entry/noveljam_kibounomura

■「輪が廻る」レビューのお話|ナカタニエイト@小説家を目指すマンガ好き
https://note.com/nkyut/n/n2603a50f7fca


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