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コンプレックスを活かして 女性化乳房症の僕 【第1章】僕の胸

前書き

僕は男だけど、胸が膨らんでいる。
いわゆる女性化乳房と言われる症状だ。
この胸のおかげで僕の青春は真っ暗だった。
その闇から脱出すべく、大学生になった僕はバイトをして、胸オペ代を貯めている。

しかしまさかこの胸が活きて来るなんて、人生ってわからない。
そして僕は違う人生を歩み始める。


【第1章】僕の胸

(うぅ、気持ち悪い、吐きそうだ)
大学からの帰り道、電車に乗っていた時に急に吐き気が襲ってきて、僕はその場に座り込んでしまった。
「お嬢ちゃん、大丈夫?」
隣に立っていた年配の女性が、心配そうに声をかけてきた。
また女性に間違えられた、くそっ!
そう思ったが、怒りよりも吐き気の方が強い。
「だ、大丈夫です・・・」
声を振り絞って答えると、次の駅で途中下車してトイレへ駆け込んだ。
しばらくベンチに座り、体調が戻るのを待つ。

それにしてもあのおばさん、僕をお嬢さんと呼びやがって。
いつものことで慣れているつもりだけど、やっぱりプライドが傷つく。
そんなことを考えていると、ようやく体調が良くなってきた。
良かった、次の電車で帰ろう。
そう思いながら、ベンチに座っていた。

そもそも、なんで僕がこんな目に遭わなければならないんだ?
いつもそう思うが、こればかりは仕方がない。
吐き気の原因は、わかっている。
この胸の締め付けだ。

僕は大学生で、今日は朝から夕方までずっと授業があって、そのおかげで一日中胸が締め付けられていた。
おまけに気温は30度越えの真夏日だから、長時間の締め付けと暑さで気分が悪くなってしまうのだ。

だから僕は夏が大の苦手で、できることなら一日中部屋の中で過ごしたい。
でもそう言う訳にもいかず、本当に苦労してしまう。
なぜ僕は胸が締め付けられるのかって?
実は僕、女性化乳房症という症状なのだ。

女性化乳房症とは、男性の胸がまるで女性のように膨らんできてしまう症状のこと。
この女性化乳房性は思春期の男子に多く、ホルモンのバランスが崩れて男性ホルモンより女性ホルモンの分泌量が相対的に高くなることが原因のようだ。

僕にこの症状が現れたのは、中学二年の時のこと。
気付くと乳首に10円玉程のしこりができており、触れるだけでめちゃくちゃ痛い。
この症状は何人かの友達にも現れており、病院へ行った友達の話によると、全く心配ないとのこと。
放っておけばそのうち治るらしく、それを聞いて僕も安心した。

結局、あのしこりと痛みは半年ほどで消えたけれど、僕は胸が何となく膨らんでいるように感じた。
それでも当時はあまり気にするほどではなかったので、そのまま中学生活を過ごしていたけど、中学三年の夏にTシャツ一枚になってみると、明らかに胸が膨らんでいる。

心配になった僕はネットで調べてみると、この症状は思春期の男子によくあるらしく、1〜2年もすれば改善されるとのこと。
またまた安心した僕は、なんとかごまかしながら夏を過ごした。

しかし高校に入ると症状が悪化し、胸はますます膨らんでしまった。
通常の女性化乳房症は胸がほんのり膨らむ程度だが、僕の場合は小さめのおっぱいくらいある。

もう隠せないと思った僕は、小遣いでナベシャツを買って、胸を隠すようになった。
と言っても冬場は厚着でごまかせるから、ナベシャツで胸を隠すのは夏場だけだけど。

女性化乳房症の男性にとってはナベシャツが便利なアイテムだが、僕はこの締め付けが苦手で、長時間着けていると必ず気分が悪くなる。
だから夏場の朝から夕方まで着けていなければならないのは、本当につらい。
でももう少しの辛抱だ。

高校を卒業して都内の大学へ進学した僕は、入学直後からバイトを始めて貯金を始めた。
目標はただ一つ、胸の手術だ。
つまり外科手術で胸の膨らみを取ってもらい、普通の男子大学生として過ごしたい。

まだ入学から2ヶ月しか経っていないが、結構いいペースで貯金できている。
このまま行けば今年の冬には手術ができ、来年の夏はもうナベシャツが不要になるかもしれない。
それだけを心の支えに僕は頑張っている。

とにかくこの胸の膨らみのせいで、僕は暗い高校生活を送ってきた。
男なのに胸が膨らむのはホルモンバランスの乱れが原因だけど、僕の場合その影響は胸だけではない。
変声期は来ないし、背も低くて華奢だし、体毛もほとんどない。
とにかく、体全体が男性らしくない。

不安になって病院で検査してもらったところ、意外にも僕の体内の男性ホルモン値は平均的な男子と変わらないとのことだった。
それなのになぜ男らしい体になれないのかというと、体質の問題だと言われた。

どうも僕の体内のホルモン受容体は、男性ホルモンより女性ホルモンの方が敏感に反応するらしい。
だからいくら男性ホルモン値が正常でも、受容体の反応が鈍いので、体はなかなか男性化しない。
逆に正常な男性でも体内には少量の女性ホルモンがあるが、その少量に受容体が反応してしまい、胸が膨らんでしまうのだという。

この診断結果を聞いて、僕は愕然とした。
今まで僕は単に人より二次性徴が遅いだけで、そのうち男らしい体になれると思っていた。
しかしこの体質では、男らしい体になれないとわかり、ショックだった。
ただ救いだったのは、男性器の機能は正常だったということ。
男性ホルモン値は正常なので男性器はちゃんと成長していて、普通に射精もするし精子量も一般の男子と変わらないとのことだった。
だから将来子供を作ることはできるそうで、これは本当に良かった。

まあ、体質は仕方ない。
男性の機能が正常なら、とりあえず小柄でハイトーンボイスの男として生きていこう。
僕はそう気持ちを切り替えた。

しかし、この体と声のせいで、初対面の人からは必ず女性と間違われる。
電車の中で声をかけてきたマダムも、こんな僕を見て色気のない女の子だと思ったのだろう。
こんな感じで僕はコンプレックスの塊だけど、体質を変えることは無理だから、せめて胸だけでも取って平らにしたいと思ってバイトに励んでいる。

一刻も早く手術を受けるため、僕は普段の生活でも節約を心がけている。
特に今住んでいるマンションに関しては、かなり節約できた。
実はこのマンション、3月までは僕の姉が住んでいた。
姉は僕より4つ上で、ちょうど僕と入れ替わりで大学を卒業し、Uターン就職で地元へ帰った。
だからそのマンションを引き続き僕が借りれば、敷金礼金を節約できる。
おまけに生活に必要な家具や家電は全て揃っているので、本当にお得だ。

そう思ってスーツケース一つで僕は上京したのだが、マンションに着いて部屋に入った途端、びっくりした。
何と、絵に書いたようなマイメロ部屋なのだ。
マイメロ部屋って何?って人はググってもらえばわかるが、とにかく部屋全体がピンクで統一され、インテリアや寝具はマイメロディのデザイン物だし、おまけに家電も女性向けの可愛らしい物ばかりだし。

そう言えば姉は子供の頃からマイメロディが大好きで、実家の部屋にも幾つかぬいぐるみがあった。
それが大学生になって一人暮らしを初めて、まさかここまでヒートアップするとは・・・
僕が姉に「家具や家電はそのまま置いてって!」と頼んだら、「いいの?」って言ってたのは、これが理由だったんだ。

僕はこの部屋に住むのね、これじゃ誰か遊びに来た時に恥ずかしいなぁ。
せめてカーテンだけでも替えてイメチェンする?
そう思った僕だったが、カーテンを新調するお金ももったいないし、それに大学まで電車で一時間以上もかかるような場所だから、遠すぎて誰も遊びに来ないよね。
だったらこのままでもいいか。
胸オペ後にまたお金を貯めて、少しずつ買い換えよう。

結局そう思ってこの部屋を受け入れ、スーツケースの中身をしまおうとタンスを開けた僕は、また驚くことになる。
何とまだ姉の服がびっしり残っているではないか。
えっ?と思って隣のタンスを開けてみると、そこにも姉の服が所狭しと並んでいる。

何だよこれ、忘れ物か?そう思って姉に電話してみると、これらは学生っぽい服なので、社会人になったら着ないとのこと。
引っ越す前に処分するつもりだったけど、時間がなくてそのままにしたそう。
「あんたが捨てといて!」そう言って姉は電話を切ってしまった。

なんか面倒くさい役目を押し付けられて僕は不満だったけど、良く考えたら捨てるのは勿体無い。
相当な量があるし、全部メルカリに出せば結構な売上になるかも。
よし、バイトと並行して、これらを売ろう。
そう思った僕だけど、大学の入学式が終わると授業とバイトに忙しく、メルカリへの出品はできないまま時が過ぎて行った。


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