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コンプレックスを活かして 女性化乳房症の僕 【第2章】クラスメイトはアイドル

そして入学から一ヶ月半が経ち、カレンダーは5月中旬になっていた。
僕は大学が終わるとすぐに帰路につき、バイトへ向かう日々を送っている。
実に平穏な毎日だが、最近気になることがある。

それはまだ5月の中旬だと言うのに気温が高く、暑くて仕方がないこと。
暑いと薄着にならざるを得ず、ナベシャツを着て胸を隠さなければならない。
僕はそれが憂鬱でぎりぎりまで我慢していたが、遂に暑さには耐えられなくなって5月下旬には薄着になった。

一年ぶりに身に着けるナベシャツは、相変わらず締付がキツくて不快感しかない。
だから長時間の着用は無理なので、僕は授業の時間やバイトをコントロールしていた。

しかし6月中旬のこの日、そのコントロールができずに朝から夕方まで授業が入っている日の帰りの電車の中で、ついに体調不良になってしまったのだ。
僕は次の電車に乗って帰宅し、ナベシャツを脱いで開放感を満喫し、眠りについた。

こんな生活を送っている僕なので、バイトは平日を中心に入れている。
と言うのも休日はナベシャツなんか着けずに、ゆっくり過ごしたいから。
だから休日は家にこもって、ゲーム三昧。

しかしそんなある日の日曜の予定が入ってしまい、新宿まで行くことになってしまった。
僕はさっさと用事を済ませて帰ろうと思い、ナベシャツを着て新宿に向かった。

新宿での用事は順調に終わり、帰ろうと駅に向かう途中にお腹が空いたので、僕は通りがかったファーストフードに入り、ハンバーガーセットを持って二階席へ上がった。
ちょうどお昼時と重なって店内は混雑していたが、奥の席が空いていたのでそこに座ってハンバーガーセットを食べ始める。

そして5分ほど経った頃、一人の若い男がトレイを持って二階席へ上がってきた。
それ自体は全然珍しくないけど、彼は男の僕から見てもイケメンで、とても目を引く容姿だった。
イケメンは高身長なことが多いけど、彼はそれほど背は高くないのに、美形で目立つ存在だった。

彼は空いている席を探し、僕の席からちょっと離れたところに座って食事を始めた。
しばらく彼を見ていると、僕はあることに気付く。
あれ?どこかで見たことがあるような?

彼は僕と同じくらいの年齢に見えたので、もしかしたら小中高どこかの同級生かな?
そう思って必死に知り合いの顔を思い浮かべたけど、一向に思い出せない。

そうしているうちにますます気になって、気づけば彼を直視していた。
すると彼も僕の視線に気づき、目が合ってしまった。
僕は慌てて目を逸らしたけど、バツが悪いったらありゃしない。

しかし僕が驚いたのは、彼が明らかに動揺したことだ。
僕の顔を見た途端、彼はそわそわし始め、不自然な動きを見せた。
彼は僕を知っているのか?
やはり、知り合いなのかもしれない。

そう考えて僕は再び必死に思い出そうとしたけど、どうしても思い出せない。
結局僕は面倒になって、思い出すのをやめた。
別に誰だっていいや、知り合いかもしれないけど友達じゃないんだし。
その時ちょうど食べ終わったので、僕はファーストフード店を出て駅に向かった。

歩いていると、突然後ろから誰かに肩を叩かれた。
驚いて振り返ると、そこには先程の彼が立っている。
「話があるから、ちょっと付き合ってくれ。」
そう言うと彼は僕の手を掴み、駅とは逆方向へ引っ張って行った。
(えっ、何?)
と、僕はびっくり!
そりゃそうだよね、いきなり手を掴まれて引っ張られたら、誰だって驚くよ。
でもそんなことよりももっと驚くことがあった。

それは、彼の声。
彼の声はとても甲高く、まるで女性のよう。
いや、完全に女性の声だ。
しかもその声を聞いて、僕は彼が誰かわかってしまったのだ。

その声は、国民的女性アイドルである、サヤカさん。
僕は人の声を聞き分けることが得意で、一度聞いたら大体誰の声かわかってしまう。
ましてや彼女の大ファンである僕だから、間違えようはない。

そして彼女と僕だけど、実は大学の同級生だった。
入学式の時に黒山の人だかりが出来ていたからちょっと覗いてみたら、何とそこには憧れのアイドル・サヤカさんがいてびっくり!
大学に進学するとは聞いていたけど、まさか同じ大学・学部・学科だとは思わず、またまたびっくり!

僕はこの偶然に感謝し、これを機にお近づきになろうとしたけど、彼女は忙しいアイドルだから、大学にはそんなに来れないみたい。
それに大学に来てもいつも周りに取り巻きがいて、近付くことさえできない。

だから僕はテレビの中と同じロングヘアーでミニスカート姿の彼女を、いつも遠くから眺めているだけ。
彼女はモデルも兼任していることもあって、身長が170センチを越えているらしく、遠目からでも目立つし。

そんな国民的アイドルの彼女が、なぜ男装しているのだろう?
僕はそんなことを考えながら、彼女に引っ張られながら後ろを歩いた。
すると彼女はあるネットカフェに入り、個室を選択して僕と一緒に入室し、鍵をかけた。
そして持っていたペットボトルを飲み干す。
「はぁ、少し落ち着いたよ。」
そう言うと彼女は椅子に腰を下ろし、僕の方を向いて話し始めた。

「確か君は僕と大学で同じクラスだよね?」
「はい、やっぱりあなたはサヤカさんでしたか。」
「ははは・・・・お願いだ、このことは誰にも言わないでくれ、頼む!」
「サヤカさんの頼みなら、誰にも言いませんよ。」
「本当に?」
「本当です。」

「良かった、助かったよ。」
「でも正直言って驚きました。絵に描いたような美少女アイドルのサヤカさんが、まさか男装しているなんて。」
「まぁ色々あって。」
「そうなのね。」

「新宿は人が多いから、絶対に知り合いに合わないと思っていたのに、そしたらさっきのファーストフードで君と目が合って心臓が止まるかと思ったよ。でもよく俺だと気づいたね?」
「いや、全然気付きませんでしたよ。気付いたのはさっきかけられた声で。」
「えっ、だってファーストフードで笑ってたじゃん?気づいたから笑ったんじゃないの?」
「あれは見たことある気はしたけどどうしても思い出せなかったから、誰でもいいやって思って苦笑いしただけだよ。」
「えっ、じゃあ声かけなければわからないままだったってこと?」
「そういうことかな。」
「俺の早とちりか・・・」

こんな感じの会話を交わしたが、僕にとってはどうでもいい話だった。
それより男装しているとは言え、憧れのサヤカさんと二人きりで話すことができるなんて、心が踊るような感覚だった。
その後も話は続き、サヤカさんはなぜ男装しているのか、その理由を教えてくれた。
それはこうだ。

彼女はアイドルになることを夢見て、中学時代にデビューした。
もともと容姿端麗で歌の才能もあり、数年後には国民的アイドルにまで成長した。
国民の目にはミニスカートが似合うフェミニンな美少女として映っていたが、本当の彼女は真逆の性格らしい。
毎日無理をして美少女を演じているので、ストレスは貯まる一方とのこと。
だからオフの日はストレスを発散したくても、有名人ゆえにどこへ行っても人だかりで楽しめない。
そこで、変装として男装に挑戦したところ、意外にも楽しくてはまってしまった。
つまり、変身願望の一種で、普段の自分とはまったく違うキャラになることでストレスを解消しているのだ。

(なるほど、アイドルも大変だなぁ。)
サヤカさんの話を聞いて、彼女に同情せずにはいられなかった。
こんなに美しい彼女が、自分を演じることで苦しんでいるなんて、本当に勿体ないと思った。

その時、突然サヤカさんが意外なことを口にした。
「ねぇ、君も男装女子でしょ?」
「違いますよ、僕は昔から女子に間違えられるけど、れっきとした男子です。」
「だったら何でナベシャツ着けてるの?」
「えっ、何のことですか?」
「ごまかしても無駄だよ、俺もナベシャツして胸を隠してるから、わかるんだよ。」
「う〜ん、サヤカさんが自分をさらけ出したから、僕もさらけ出すね。」
そう言って、僕は自分のことを全てサヤカさんに話した。

「そうだったんだ、君は女性化乳房症の男子だったんだ。」
「うん。」
「これでお互いに秘密を共有したね。俺も絶対に黙っているから、君も絶対に黙っててね!」
「うん!」
何だか僕は嬉しかった。
だってあのサヤカさんと秘密を共有できたのだから。

そんなことを考えながらニヤけているとき、サヤカさんが僕にこう言った。
「ねぇ、ちょっとおっぱい見せてみて。」
「えっ?無理無理!」
そう言って僕は断ったが、彼女は簡単に引き下がらない。

「大丈夫、今の俺は男に見えるけど、女なんだからおっぱいなんて見飽きてるし。」
「でも・・・」
「見れば何かアドバイスできるかも。」
何かよくわからない理屈だったが、彼女の強引な押しで僕はついに上半身裸になってしまった。

「これは予想より大きいね。大きさ測ったことある?」
「ないよ。」
「たぶんAカップあるよ。男子だったらこれは大きいよね。」
「そうでしょ?だからナベシャツは欠かせなくて。」
「ありがとう、もう服着ていいよ。」
「アドバイスは?」
「今はないけど、考えておく。」
そう言うと彼女は笑った。
そうこうしているうちにボックスの制限時間が来て、僕達は互いに帰路についた。


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