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Back to Male! 〜男に戻れ!〜 【第2章】俺が生まれる前にタイムスリップ

ドクの話をまとめると、このタイムマシンは概ねこんな感じだ。

  • タイムマシンとは言え大昔や遠い未来には行けず、過去も未来もそれぞれ最大50年が限界。

  • 過去にタイムトラベルした場合、余計なことは絶対にしない。もしそんなことしたら時間軸が変わってしまい、別の未来になってしまう可能性がある。

  • 過去と未来それぞれ最大50年と言う中途半端なタイムトラベルのため、場合によってはタイムトラベル先にその時代に生きている自分が存在する可能性がある。しかし同じ人間が同時に存在することができないので、タイムトラベルした側は実体として存在できず、幽体となる。

「ドク、幽体となるってどう言うこと?」
「文字通り幽霊のような存在で、自分の魂だけが浮遊している感じだ。」
「じゃあ例えば昔の自分に会って、未来のこと色々教えることはできないんだ。」
「その通り。しかもその時代の自分に会ったら、とんでもないことになる!」
「とんでもないこと?」
「幽体のままその時代の自分に会うと、幽体の自分はその時代にいる実体の自分に吸い込まれ、一体化してしまうんだよ。そうなるともう今の時代に戻ることはできなくなってしまう。それに吸い込まれた幽体は記憶を実体に上書きしてしまうから、今の記憶のままその時代の自分として生きなければならないんだ。」
何かすごい話だ。

「実はマーティ、さっき私は10年前に行ってきたと言ったけど、戻って来れなかったんだ。」
「どう言うこと?」
「10年前にタイムトラベルしたら、当然そこには10年前の私がいる。だからタイムトラベルした私は幽体だったけど、つい自分に会ってしまったんだよ。そして私は吸い込まれ、気付いたら10年前の自分と同化していた。だから未来に戻れず、諦めて10年生きてきたんだよ。今日でちょうどその10年経ったんだ。」
「10年前と言えばちょうど僕達が出会った頃だよね?あの時のドクは今のドクだったってこと?」
「そう言うこと。つまり私はマーティと出会うこと知っていたし、仲が良くなることも知っていたんだ。」
「それはそれですごいわ!」
そんなことを話していると時計の針は午前0時前を指しており、かれこれ3時間程話し込んだこととなる。
僕は名残惜しかったがそろそろ終電の時刻のため、この日は家路についた。

翌日になっても、俺の興奮は消えない。
昨晩あんな話をされたら、冷静になんていられるものか。
そう言えば昨日の帰りにドクは言ってたな、マーティも一回くらいタイムトラベルしてみるか?と。

大学時代にドクと会話してた時、俺は言ったことがある。
俺の実家の近所には、江戸時代に建築された有名な文化遺産が建っていたのだが、俺が生まれる一ヶ月前に火災が起こり、全焼してしまった。
だから俺はその文化遺産を写真で見ることしかできなかったが、それはとても美しく、是非の生で見たかったと。
もし全焼する前にタイムトラベルしたら、夢が叶う。
しかも俺が生まれる前なので、タイムトラベルした先に俺はいないから、実体でいられる。
そしたら写真も撮れるよね。

ドクはそれを覚えてくれてたんだ。
よし、俺もタイムトラベルしよう!
そう決心し、俺はドクへ連絡をした。

その後ドクと打合せをし、タイムトラベルの日程を決めた。
タイムトラベル先は、俺が産まれる約10ヶ月前。
その時代なら文化遺産は焼失前なので、見られるはず。
そして俺はドク経由で今の紙幣を昔の紙幣に両替してもらい、ある薬を忍ばせてタイムマシンに乗り込んだ。
「マーティ、わかっていると思うがタイムトラベル先では絶対に人を助けたり人を貶めたりするなよ、未来が変わっちゃうから!」
「了解、ドク!」
こうして俺は過去へ旅立った。

気付くと俺は、どこかの建物の中に横たわっていた。
慌てて起き上がり外へ出てみると、俺のいた時代とほとんど変わらない景色が目に入った。
本当にタイムスリップしたのか?
と思ったが、走っている車を見て確信する。
そう、古い車ばかりが走っているのだ。
試しにコンビニで新聞を買ってみると、日付は確かに俺の産まれる10ヶ月前だ。
「やった!」
俺はそう思うと新幹線に飛び乗り、地元へ向かった。

地元に着いた俺の目に飛び込んできたのは、見覚えのない建物。
ここは公園だったけど、昔はビルだったんだな。
だったら近所の文化遺産もまだ残ってるはず。

こうして俺はタクシーに乗り、実家近くまで行ってみる。
するとそこには写真で見た文化遺産がそびえ立っていたではないか!
「やっぱり生で見るのは凄い!」
そう思って俺は片っ端から見て回った。
あぁ、本当にタイムマシン様々だ。
満足した俺はここでふっと我に返る。
そろそろ本当の目的に移るか。

このタイムトラベル、表向きは文化遺産を生で見たいと言うものだけど、本当の目的は別にあった。
本当の目的、それは俺の母親を探し出し、密かに持参した薬を飲ませること。
その薬とは、男女を産み分ける薬。
俺のいた未来では、既に男女を産み分ける薬が流通している。

人間の性別は、精子によって決まるのはご承知の通り。
母親の卵子と結びつくのがY遺伝子の精子なら男の子、X遺伝子の精子なら女の子。
男女を産み分ける薬には青色と赤色の二種類があり、青の薬を母親が飲むとX遺伝子の精子と受精できなくなり、結果的にY遺伝子の精子と受精して男の子が生まれる。
赤の薬を飲めば逆にY遺伝子の精子と受精できなくなり、結果的にX遺伝子の精子と結合して女の子が生まれるのだ。
実は俺の娘も、赤の薬を恵梨香が飲んで女の子が産まれた。
それが俺達夫婦の希望だったからだね。
この産み分け薬が出てから中絶が減ったので、大変重宝されている。

俺はその産み分け薬の赤を、密かに持ってきていた。
これを母親に飲ませれば、俺は女の子として産まれてくるはずだ。
それが今回タイムトラベルした本当の目的なのだ。
何で自分を女の子に産まれさせたいかだって?
その理由は簡単、実は俺、本当は女の子に生まれたかったから。

俺が最初にそのことに気づいたのは、幼稚園の頃。
同級生の女の子の履いているスカートが羨ましくて仕方なかった。
だから俺も履きたいと言うと、男の子はダメと言われる。
そこで自分が男と言うのに違和感を覚えたのだ。
以後ずっとその思いはあったが、小学校に入ると段々と忘れて行き、男の子を楽しんだ。

しかし中学になって制服になると、女子のセーラー服が眩しく見えて、また女の子になりたくてなりたくて仕方なかった。
だから家でこっそり母親のスカートを拝借して履いていたりしたが、やはり人前では男を装うしかない。
そのうち二次性徴が始まって俺の声は低くなり、身長もめちゃくちゃ伸びて毛深くなり、絵に書いたような男になってしまった。
こうして俺は女の子になりたい思いを諦めて、男として暮らすことを決断する。
本当に苦渋の決断だった。

そして高校生になり、恵梨香と知り合った。
彼女に憧れたのは前述の通り、可愛かったからではない。
実は彼女、自分が思い描いている理想の女の子そのものだった。
俺も女の子に産まれてたら、こんな生き方をしたい!
恵梨香に自分の理想の生き方を投影してたから、憧れていたのだ。
その後結婚して冷めたのも、母になった彼女を見て自分の理想をもう投影できなくなったからかもしれない。

女の子として生きる夢なんてとっくに諦めて男として暮らしてたけど、タイムマシンの存在を知ってもしかしたら過去を変えられるかも知れないと思って、いても立ってもいられなくなった。
そして夢を叶えるべく、タイムマシンに乗り込んだのだ。

これでもし過去を変えられたら、未来に戻った自分は女性として暮らしているだろう。
女性として一ヶ月くらい暮らしてみて、適当に女性生活を楽しんだらまた同じ時代にタイムトラベルして、母親に赤の産み分け薬を飲ませることを止めればいい。
そうすれば未来は変わることなく、元通り男の自分になっているはず。

やはりずっと男として生きてきたし、いきなり女性としてずっと生きていくのは難しいだろう。
たから少しの間だけ女を楽しみたい、そんな思いだった。
それに男じゃないと恵梨香と間に娘は生まれないし。
やっぱり娘は可愛いから、その娘がいなくなると困るしね。
こうして俺は、母親を探し始めた。


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