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本を読ませたい母の計に引っかかった娘

 はじめまして、森羅愛美です。小説と絵をかく人です。
 さて、今でこそ読むのも書くのも好きな私ですが、恥ずかしながら、小学六年生になるまで自主的には本を読まない子どもでした。
 絵本や漫画は読んだり書いたりしていたのですが、字の多い読み物は基本手つかず。学校の決められた「読書時間」では、取り敢えず人気のありそうな本を手に取り読んでみるも、時間内に読み終わらなければそのまま放置。続きが読みたいとも思いませんでした。かと言って図鑑に興味があったわけでもなく……。

 物語は好きだったのです。アニメが大好きで、ディズニーやジブリ作品はほとんど網羅し繰り返し見ていましたし、『アルプスの少女ハイジ』『名探偵ホームズ』『楽しいムーミン一家』などもどハマりしました。

 そんな私に母は本を読ませたいと考え、ある一計を講じます。

 それは、

(当時小学一年生)に読み聞かせるフリをして私に読み聞かせをし、本に興味を持たせる

 と、いうものでした。

 これがまあ面白いくらいに上手くいった。
 私はいつまでも甘えたで、寝る前、二段ベッドの下段で妹が読み聞かせをしてもらっている間、私も上段で一緒になって聞いていました。母は絵本を一冊読み聞かせた後「もう一冊」とせがむ妹に、小学一年生にはまだちょっと早い児童文学を選びます。『大どろぼうホッツェンプロッツ』(プロイスラー作/偕成社)とか、『長くつ下のピッピ』(リンドグレーン作/岩波書店)とか。それが面白いのなんの。
 「今日はここまで」と言われ切り上げられると、私は我慢できずに続きを自分で読んでしまいました。それを知った母は次の日、二冊目に別の本を選びます。
 それからは家にあるリンドグレーンとプロイスラーの作品を暇さえあれば読み漁り、読書もいいけど早く寝なさいよと注意される始末。

 幸い、当時は家から歩いて三十分のところに図書館があり、母、妹と三人で通い詰めました。一人十冊ずつ借りられたので、毎度三十冊。腕を痛くしながらも心はウキウキ。

○『フレディ_世界でいちばんかしこいハムスター』(ディートロフ・ライヒエ作/旺文社)
○ディズニーフェアリーズ文庫シリーズ(講談社)
○『ジュリー_不思議な力を持つ少女』(コーラ・テイラー作/小学館)
○リンの谷のローワンシリーズ(エミリー・ロッダ作/あすなろ書房)
○『“It”と呼ばれた子』(デイヴ・ペルザー作/ヴィレッジブックス)

 ……などなど、夢中でした。

 読書能力の成熟度は人によってまちまちです。私はきっと遅れていて、読み切れない本も沢山ありました。なので、図書館で無料、返却期限付きで借りられたのは本当にありがたいことでした。親にしろ子にしろ、好みは読んでみなければわかりません。

 返却期限も、挫折体験の印象を薄くしてくれました。「難しくて読めなかった」のではなく、「時間が足りなくて読めなかった」のだから、苦手意識にはならない。続きが読みたければまた借りて、そうでなければ次の本へ。きちんと始めから終わりまで読めなくてもいいんです、最初は。とにかく自分の「好き」を見つけるまで量をさらう。

 「この歳ならこのレベルの本を読むべき」と決めつけず、簡単な本から「自ら興味を持ち、読み切ったという成功体験」をさせてくれた母には、感謝しかありません。本を好きになれて、こんな楽しい世界を知ることができて、本当に良かった。

 実は、母の計略通りであったと知ったのはついこの間のこと。「あなたが読み終わっていたら妹がまだでも次の本にいっていたでしょう」と言われてびっくり。確かに。妹は途中で寝てしまうことも多く、文句を言うことはありませんでしたが……。
(ちなみに現在、妹はかなりの読書家に成長し、私をはるかにしのぐ量の本を読んでいる模様)

 今言えることは、母よ、
 ありがとう! まんまと引っかかりました!

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