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ついにできたエナメル質素材。虫歯で失った歯を復元可能!!

 虫歯になると、歯医者さんに行って、歯を削ってギン歯などの歯科材料で被せ物をします。どんなに腕の良い歯医者さんが治療しても、失われた歯を元通りに復元することは不可能です。しかし、擬似的なエナメル質素材が開発されたことによって、これまでの虫歯治療を大きく変える可能性が出てきました!今回は、その新しいエナメル質素材について紹介します。(池田弘)

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 九州歯科大学 生体材料学分野の池田准教授、清水教授らの研究グループが白くて3Dプリンタで作れる被せ物の新規材料を開発した。新規材料は歯のエナメル質と同じ硬さと象牙質と同じしなやかさを兼ね備え、歯とほとんど同じ性質をもっている。今後、金属、プラスチック、セラミックスなど現行の被せ物の替わりの材料として期待される。この研究結果は、歯科領域で最も著名な学術論文誌であるJournal of Dental Researchで2021年5月12日にオンライン公開された。

英文タイトルPrintable PICN composite mechanically compatible with human teeth
日本語訳:ヒト歯質と同じ力学的性質をもつ印刷可能なポリマー浸透セラミックネットワーク複合材料

 歯の一部を虫歯や衝撃などで失ってしまうと、皮膚などの軟組織と違って自然に再生することはない。そのため歯の治療においては、いわゆるギン歯やセラミックスなどの歯科材料を用いる必要がある。しかし、既存の歯科材料の中に歯のような性質をもつものは、実はこれまでなかった。今回、新しく開発した歯科材料は、歯の表層であるエナメル質の硬さとその内側にある象牙質のしなやかさを併せもっている。また、汎用の光造形方式3Dプリンタを用いて所望の形態に造形することができる。

 新規材料はプラスチックとセラミックスを両方含む複合材料である。従来の歯科用複合材料は、プラスチックの中にセラミックスの粒子を大量に混ぜて作られていたが、硬さはエナメル質の1/5程度が限界であった。一方、新規材料は連続した小さな穴をもつスカスカのセラミックスの中に液状のプラスチックを流し込んで固めて作る。その結果、ナノサイズのオーダーで両者が複雑に絡み合う。この世界初の微細構造により、エナメル質の硬さと象牙質のしなやかさを同時に実現することができた。この性質は、歯の被せ物として最適である可能性が高い。新規材料は色調や透明性も制御することができるので、歯に近い外観を再現することもできる。新規材料の用途は広く、被せ物だけでなく、入れ歯、インプラントなどの歯の代替材料のほとんど全てに応用可能である。

 現行の被せ物で最も使用されているギン歯は、金、銀、パラジウムなどの貴金属を多く含むため、コストが高く、国の医療経済を圧迫している。今回の新規材料の原料は、安価なセラミックス粉末と樹脂であるため原価が安く、3Dプリンタで作製できるなどのコストメリットがある。

 現在のところ、歯の被せ物を作るのに1〜2日の工程が必要であるが、今後作製時間の短縮をはかる予定である。本研究に関わる基本技術は特許出願済み。

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連絡先:九州歯科大学 生体材料学分野 池田 弘
r16ikeda@fa.kyu-dent.ac.jp

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