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「芸術」を考える : 我思う、故に我あり⑥

 芸術といっても、ここで取り上げたいのは古代芸術である。芸術(アート)たる言葉が生まれる前に作製された壁画や彫刻は、現代でも芸術である。なぜ我々は表現し、それに感動するのか。(小野堅太郎)

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 芸術にはいろんな要素がある。絵画、彫刻、音楽、アクセサリー、ファッション、花道、書道、ダンスなどなど。映画、ゲーム、料理、香水、スポーツ、格闘技、囲碁、将棋、漫才、コントにも芸術を感じることがある。芸術は感覚器を介して脳に働きかけて感動をよぶ。その一方で、名作といわれる作品を「なんでこんなものが?」と思う時もある。人により芸術性を感じるか否かが異なる。また、芸術性といっても、美しい、カッコいい、魅力的、意外性、面白いなど、芸術性の質の感じ方についても人それぞれである。

 こういった芸術作品そのものは、実利性に非常に乏しい。しかし、ヒトは芸術作品に衝撃を受ける。エンタメとして楽しむ。そのため、ヒトは芸術作品を無駄ではなく、価値あるものとして評価する。なぜ作品を作るのか、なぜその作品に感動するのか、なぜエンタメとして楽しめるのか。生得性の生理機能が関わるのか、それとも後天性の社会的価値観なのか。現代では複雑化し、多様な表現技術と社会構造に溢れていて、芸術について考えると混乱してしまう。芸術はビジネスとなり、今後ますます大きくなっていくと思われる。作品そのものに実利がなくとも、お金になるのが現代である。お金になるといった理由だけで、芸術への疑問は解消してしまう。

 では、芸術がビジネスになる前、芸術という概念の存在しなかった、まだ文字が発明されていない、原始の芸術に目を向けることで、芸術の本質を考えることができるかもしれない。そこにはシンプルな脳環境をもつ我々の祖先がいる。故に、古代美術について考えてみたい。

 洞窟壁画では、ラスコーやアルタミラが有名どころである。まだ、氷期である4万年ほど前の絵といわれている。精細な牛の絵は生き生きとして見る者を圧倒させる(写真でしか知らないが)。素晴らしい彫刻作品は海外に多いが、日本でも縄文土器(1万年前)は目を見張る。

 ヒト属への進化(直立歩行)は、咽頭腔を拡大させ、多様な音声を作れるようになった。これは歌を産み、いずれ言語を発生させたと思われる。つまり、ホモ・サピエンスへの進化前から、ヒト属はある程度に成熟した音声言語を持っていた可能性がある。ならば、我々は当時、これらの古代の芸術作品を言葉で評価し合ったと思われる。その中で、芸術家は高い評価を受け、「名声」を得ることになっただろう。これは、現代の芸術にも通じる。

 では、名声を得るために芸術作品を作るのだろうか。現代の価値観で名声を評価してはいけない。大きく見積もっても数十万人の小さなコミュニティでの小さな評価である。集落単位なら30〜50人程度のムラである。今ほどの名声による自己満足が得られたかどうかは疑わしいものの、影響がなかったとはいえない。とはいえ、名声を得る方法は、芸術でなくてもいい。狩りや採取、料理や戦闘など他にもある。名声だけでは説明がつかない

 芸術は、前々回の記事「空想を考える」で述べた動物脳の空想回路が運動機能を使って体外に表現されたものである。想像、創発を形にしたものである。より空想に近いものにするには意識回路を働かせて試行錯綜と訓練と学習を行う必要がある。その作品が評価されるには、この作品が他者に共感を産まなければいけない。つまり、評価者側は作品と自分の心を照らし合わせ、自分との共通風景を見つけ出したならば、その作品は自分を表現してくれている大切なものとなる。見いだせなければ、評価者にとって価値はない。

 洞窟壁画に描かれる牛は一見すると写実的だが、よくみると誇張が多い。そして、写真の精密さには全く敵わないくらい、単純化されている。この誇張と単純化により、二次元に表現された牛の絵であるにも関わらず、躍動感を持っているかのように感じてしまう。これに感動するのなら、同じ風景を我々は心の構造に見ていることになる。

 我々が見ている世界、聞いてる世界、嗅いでる世界、味わう世界、風を感じ、固さや柔らかさ、暖かさや冷たさを感じる世界、すべては脳で合成され、脳で感じ、脳で処理される。記憶に蓄積された世界は心を形成し、その不規則な繋がりから空想する。芸術は、心の構造にアクセスし、自分だけでなく、他人にも心の構造があるのだと感じさせてくれる。芸術は自分の心を意識回路とは別に真に客観的に再確認させてくれる装置かもしれない。

 動物脳には知覚(認知)があり、快・不快の回路に影響し、学習による記憶と共に過去の記憶を想起させ、心の構造を形成している。ヒトが進化で得た意識回路は、心の構造による行動や感情の発現前にそれを認知させ、自我を生んで、心の構造を書き換える。自我の形成は、他人にも心の構造があることを認知させ、社会での集団形成を促進して大きな力を得た。動物脳で繰り返し行われる記憶の再生は記憶を強化し、予想行動を発現させ、空想を形成し、意識回路による修正を受ける。睡眠による意識回路の休息は、自由となった空想を夢としてみさせる。空想体験は発想や創発を促し、意識回路により修正されながら芸術を生み出して、共感し、我々は楽しむ

 この仕組みの最大の謎は「認知」である。認知とは何か。我々はどのようにして脳で感じることができるのか。次はこの話です。

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